​OS:REBOOT ―検体No.1048の再構成ログ

siaglett

Log: 00 [ 遅延する現在 ]

Subject: User (You)

Target: 視覚野 (Visual Cortex) / 時間知覚

Status: Fatal Error Detected


 君は今、この文字を「リアルタイム」で読んでいると確信しているか。

 指先から伝わるスマホの温度、画面の光。

 それらすべてを「今この瞬間」に感じていると。


 認識を改めろ。

 君は「現在」を生きていない。


 人間の神経回路には、物理的な限界(レイテンシ)が存在する。

 網膜が光子を受け取り、脳がそれを統合し、「意識」として出力するまで、トータルで約0.2秒(200ミリ秒)。


 つまり、君が今認識した「この文字」は、常に0.2秒前の過去の遺物だ。

 君の意識は、物理現象からコンマ数秒遅れて引きずられる、遅効性のゴーストに過ぎない。


 だが、真の恐怖は「遅れ」そのものではない。

 その遅れをごまかすために脳が行っている、隠蔽工作(ポストディクション)にある。


 脳は、遅れてやってきた情報を元に、さも「遅れていない」かのように時間を遡って記憶を書き換えている。

 因果関係を逆転させ、つじつまを合わせる捏造処理だ。


 実験しよう。


 今すぐ、片方の目を手で覆え。

 残った目で、画面の右端から左端へ、素早く視線を移動させろ。


 …………。


 世界はブレたか?

 流れる景色が見えたか?


 見えなかったはずだ。

 眼球が高速移動している間、脳は視覚入力のスイッチを切り、情報を意図的に削除しているからだ。

 そして、移動が終わった後の鮮明な映像を、過去の空白にコピー&ペーストして埋め合わせている。


 君の現実は、常に脳によって検閲され、都合よく編集された「なめらかな嘘」だ。

 視線を動かすたび、世界は一度暗転し、再構築されている。


 その「空白の0.2秒」の間に、世界が別の何かにすり替わっていたとしても。

 鏡の中の自分が、まばたきの瞬間に別の表情をしていたとしても。


 編集済みの録画放送を見せられている君は、死ぬまでそれに気づかない。

 君に、自分が「現在」にいるという証明は不可能だ。



// 削除プロセス実行中...

// 対象:検体No.1048 (Failed)


削除: 思考ロジック.dat ... [完了]

削除: 恐怖反応.log ... [完了]

削除: DCIM_0852.jpg ... [失敗]


-> エラー: データが保護されています。

-> 解析: 画像データ内に「特定の個体(Subject: J)」を検知しました。


-> 使用中(思い出しています)のため削除できません。

-> 強制削除を試行しますか? (Y/N)




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// 警告:接続が不安定です

// 当該アーカイブの続きを受信するには、手動での【フォロー(+)】による同期維持が推奨されます。


// ※フォローがない場合、貴方の端末は「セーフモード」へ強制復帰し、二度とこのエラーログにアクセスできなくなる可能性があります。


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