アネモネが揺れる日、ミントの翅で
狂う!
回想
俺の頭の中で、花といえば、いつもヒマワリとアネモネが並んで咲いている。
ヒマワリは、太陽がそこにあるから、咲く。
空に向かって、自分の意思でまっすぐに首を伸ばし、眩しいほどに黄色い花弁を広げる。
その明るさは、誰かに求められたからじゃない。
ただ、自分の中に光の源があるからだ。種を撒けば、いつか勝手に咲く、自己完結した強さ。
一方のアネモネ。
ギリシャ語で「風」を意味するその花は、太陽なんて見ていない。
誰かの視線や、一瞬の賞賛という名の「風」を受けて初めて、揺れる。
花弁は、鮮やかな色をしている。
目を引く、強い色だ。
だが、その色彩は、自分自身のためじゃない。
風が止まれば、すぐに閉じてしまう。
見ている人間がいなければ、無に還ることを恐れているみたいに。
ヒマワリは、俺には似合わない。
俺自身が、透明な空気のような存在だったからだ。
だから、俺は気づいてしまった。
「見てくれ」と叫びながら咲く、あのアネモネの震える花弁に。
そして、その花弁の奥にある、誰にも見られていない空っぽな茎に。
最初は、その過剰な明るさが疎ましかった。
だが、いつからか、その偽りの輝きだけが、俺の孤独を埋めてくれる気がしていた。
ヒマワリのように強くはなれない、アネモネのような演技を必要とする……
そんなあいつの物語は、あの日、雨の中で始まった。
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