永遠の二番手…だったはずなのに、学校の美少女が軒並み俺に懐いているんだが?
森 林吾
第1話
私立創文館高校。
国内でも指折りのの難関大学進学率を誇り、政界や財界の有力者がOB・OGとして名を連ねる、由緒正しき進学校である。
そんな学校の中心に立ち、全校生徒の注目を浴びているのが──新条晴樹という男である。
曰く──あらゆることに精通し、一つとして欠点のない完璧超人。
曰く──すべての者に分け隔てなく接し、深い慈悲をもつ聖者のような人物。
曰く──その類稀なる容貌で、人気ドラマの主演女優を篭絡したとか。
…全体的に大分誇張が入ってるし、最後のに至っては完全に与太話の類だが、そんな噂でも「晴樹ならもしかしたら…?」と思わせてしまう覇気がこの男にはある。
そして──そんな男の隣に立つ者こそ、そう、この俺、久藤凌河だ。
「おーっす、晴樹じゃん。奇遇だねぇ、こんな所で会うなんて。これってもしかして運命ってやつ?」
「……俺たちは幼馴染なんだし家も隣なんだから、通学路で会うのは当然だろ?」
「おっと、こいつは失敬。俺としたことが」
そう言って、悪戯な表情を浮かべ、ぺしっと自分の頭を叩く。
…………諸君らの疑問ももっともである。この所々に軽薄さが滲み出た台詞は一体誰のものかと思ったことだろう。……非常に言いにくいが、これは他ならない俺の台詞である。
曰く──何一つとして晴樹に勝てない、永遠の二番手。
曰く──晴樹の金魚のフン筆頭。
曰く──あいつ、晴樹の幼馴染だからって最近チョーシ乗ってね?
そんな数々の批判を躱し、大々的に晴樹のライバルを厚かましくも名乗ることができるように…俺は擬態を覚えた。軽薄な態度は、晴樹の近くに身を置き、力を蓄えるための演技。すべては、いずれ晴樹を超えるために。
…決して「目的のために道化を演じる俺かっけー」なんて思ったりしていない。決して。
◇◆◇
晴樹と他愛もない会話をしながら、教室へ到着する。その瞬間、教室内のあらゆる視線が俺たちに向けられた。…半生以上にわたって毎日経験してることだというのに、この感覚には慣れそうもない。救いがあるとすれば、その視線の先にあるのが俺ではないということくらいか。
「ひゅう、晴樹クン、今日もモテモテだね~」
「揶揄うなよ。…お前も分かってるだろ」
「悪い悪い、この俺の顔に免じてここはひとつ矛を収めてくれ。ダメ?」
「はぁ。…全く」
つとめて視線を気にしないようにしながら席に着こうとする俺たちに、話しかける女子がいた。
「晴樹、凌河、おは。今日は二人とも一緒なんだね、何かあったん?」
そう言う彼女は、浅木恵梨香。クラスの女子グループの中心人物であり、俺たちとは中学が同じ仲だ。言わずと知れた美少女で、ゆるくウェーブのかかった金髪が目を引く。
まともな進学校の教員が見たら卒倒ものだろうが、ここは創文館高校である。ここには校則というものが存在しない。どうも天才というのは自由にさせればさせるほどその真価を発揮するらしい。当の恵梨香も、定期テストでは常に10位代をキープする成績優秀者である。
「うっす、恵梨香。そうなんだよー。実はパン咥えて走ってたら曲がり角で晴樹と激突したんだよ。これってもう運命だよな?」
「マジ?それはもう運命だよ。結婚しちゃいな」
きゃあっ、と教室の隅から控えめな歓声が上がる。しまった、クラスには俺と晴樹をくっつけようとする陣営がいるのを完全に失念していた。この手のネタは取り扱い注意だな…。
「…頭が痛くなってきた。俺は席に着く」
呆れた晴樹が、背中を丸めつつゾンビのように席へと向かう。…こんな仕草なのに、ものすごく絵になってしまうのがこいつの凄い所だ。
同時に、俺たちに集中していた視線が晴樹の方に移った。今がチャンスだな。
俺は、恵梨香に小声で話しかける。
「(で、今日はどうしたんだよ?話しかけてきたってことは、またあの件なんだろ?)」
「(う、うん…その、今日の昼、空けといてくれる?また、相談、したいなって)」
「(おっけ。恋愛マスター凌河くんにお任せあれ)」
「(…………ありがと)」
そう、恵梨香はその外見に似合わず恋愛経験がゼロらしく、その恋を成就させるべく俺が相談に乗っているのだ。…恋愛マスターなんてふざけて言ったが、俺もこれといって恋愛経験はない。しかし、それを知りながら相談してくれた恵梨香の期待に応えたいし、何より晴樹なら頼ってくれる人を絶対に見捨てたりしないからな。
ちなみに、恵梨香の好きな人は、「イケメンで、勉強も運動も何でもできて、困ってるときはいつも助けてくれて、明るい笑顔と言動で元気づけてくれる人」らしい。…まんま晴樹なんだが、本当に隠す気があるのだろうか?最後の「明るい言動と笑顔」ってのはよくわからないが、完璧な晴樹のことだ、恵梨香の前ではそう振舞っていてもおかしくない。
「(じゃ、じゃあ、今日、昼、中庭のベンチねっ!)」
恵梨香は顔を真っ赤にしてそう言い放つと、ぱたぱたと自分の席に駆けていってしまった。並大抵の男子なら3回は落ちている可愛さだが、残念ながら数多の女性の誘惑を跳ねのけてきた晴樹には通用しない。
(いや、そんなことでどうする。この程度の困難、解決できなければ晴樹を超えるなんて夢のまた夢だ)
そう考えて自分を奮起させると、俺も席に着き、恵梨香を晴樹とくっつける計画を練り始めるのだった。
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