月の裏から届く手紙

　あなたへ

　昨夜私の心臓は海に落ちました。

　波間で鯨と談笑しているうちにあなたの声が潮風の形になって私の耳へ届きました。声は甘く湿っていて少しだけオレンジでした。

　夢の中で私の傘の中に隠れた降る雪を眺めたました。雪は全部あなたが笑った時の瞼の形をしていました。拾って溶かすたび、指先から小鳥が1羽ずつ飛び立っていきます。

　あなたの不在は透明なピアノです。

　看板を押すたびに空気が少しずつ青く染まり、私の胸の奥で水槽の金魚が目を閉じます。

　もし、あなたが来ないなら私は月の裏側で待ちます。

　そこでは時計が逆に回り、手紙は書いた瞬間にあなたのポケットに落ちるのです。

　あなたの夢の温度計より。