第10章 雨の中で紡ぐ絆

雨は勢いを増し、窓に叩きつける音が強く響いていた。美咲は秘密の小屋のベンチに座り、雨斗の手を握る。二人の間には緊張と期待が入り混じっていた。


「雨斗……あの人、どうするの?」美咲は少し声を震わせながら尋ねる。


雨斗は深く息をつき、視線を窓の外に向けた。「避けることもできた。でも、過去から逃げ続ける僕は、もう嫌だ。向き合わなければ――君と一緒にいるためにも」


美咲は頷く。怖さと不安が胸を締め付けるが、手の温もりに勇気をもらう。雨斗の横顔を見つめながら、小さくつぶやく。


「私も一緒にいる。どんなことがあっても、離れない」


雨斗は微笑む。その瞳には感謝と決意が混ざり、雨に濡れた世界を映して輝く。


窓の外から影が近づく。雨斗の過去に関わる人物――長い黒髪の少年が立っていた。その瞳は冷たく、雨斗に向けられている。


「久しぶりだな、雨斗」その少年は低く言った。「お前には、まだやり残したことがあるだろう?」


雨斗は立ち上がり、美咲の手を握り返す。「君のことは心配しなくていい。僕が全部解決する」


美咲は小さく頷く。雨音が激しくなる中、二人は一歩ずつ少年に近づく。言葉だけではなく、信頼と覚悟で対峙する――雨の日にしか現れない、二人だけの特別な力を胸に。


「過去は消せないけど、僕はもう一人じゃない」雨斗の声は強く、確かに響いた。「美咲と出会ったことで、僕は変われたんだ」


少年は一瞬ためらう。雨斗の決意と、美咲との絆が生み出す力を感じ取ったのだ。やがて、深い沈黙の後、少年は静かに頷いた。「……分かった。お前が変わったなら、それでいい」


雨斗は肩の力を抜き、美咲に微笑む。「終わった。もう怖くない」


美咲も笑顔を返す。雨に濡れた髪が顔に貼りつくが、そんなことはどうでもよかった。雨の音が二人を包み、過去の影を洗い流すように響く。


「雨斗……私、やっぱり……」美咲は言葉を途切れさせながらも、心からの思いを告げる。「一緒にいると、雨の日が嫌じゃなくなる」


雨斗は優しく手を握り返す。「僕もだよ、美咲。君といる時間が、何より大切なんだ」


窓の外には静かな雨の世界が広がる。水たまりに映る二人の影が揺れ、雨音とともに新しい一歩を刻む――過去を乗り越えた二人だけの、特別な時間。

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