第2話 七海
付き合い始めてから数日。
昼休みの時間、俺は教室で稀歌と机を突き合わせて昼食を摂っている。お互い机上に並ぶのは購買で買ったパンやおにぎりだが別にいい。まあ、欲を言えばいつかは稀歌の手作り弁当が食べたいところだ。
「ふふ、こうして和希くんと一緒にお昼が食べられて幸せだなあ」
「稀歌はいちいち大袈裟だな。これからいくらでも一緒に食べられるよ」
すると稀歌が悪戯っぽい笑みを浮かべてみせる。
「え、それって一生ってこと?」
からかいのつもりだろうが、それならこっちだってやり返してやる。
「もちろんだよ。俺は死ぬまで稀歌と一緒にいるつもりだからさ」
「……もうっ。はっきり言われると恥ずかしいよ和希くん」
その後も他人が聞いたら甘ったるすぎて胸焼けするであろう会話を繰り広げながら食事を進めていく。ちょうど互いに食事を終えた頃、不意にガラガラと音を立てて開いたドアの方を見た稀歌が表情を明るくした。
「あっ、
教室の入口に立っていたのは、小柄で大人しそうな女の子だった。前髪がやや長くて野暮ったいが、顔立ち自体は結構整っている。小動物的な女子が好みの男子からは好かれそうな見た目と言えるかもしれない。
どことなく気後れした雰囲気を醸しながらも、呼ばれては仕方がないといった風の足取りで七海が歩み寄ってくる。
「ごめんね、七海ちゃん。ひとりで学食に行かせちゃって。七海ちゃんさえよければ三人で一緒にお昼食べてもいいかなって思ってるんだけど」
申し訳なげに眉を下げる稀歌。稀歌と七海は幼馴染みらしい。高校入学後も俺が稀歌と付き合うまではふたりで昼食を摂っていた。
七海は小さく首を横に振った。それからスマホを取り出し、とてつもない速さでフリック入力を行ったかと思うと、稀歌のスマホの通知が鳴った。
内容を確かめた稀歌は、ふっと頬を緩めると俺にも見えるように机上にスマホを置いた。
『私は大丈夫。ふたりの大切な時間を邪魔したくないから』
七海は極度の恥ずかしがり屋で、稀歌以外の人間の前ではまともに声を出して喋ることができないのだ。
「もう、そんなこと全然気にしなくていいのに。七海ちゃんは私の親友なんだから。ね、和希くん」
「あ、ああそうだな」
本当は二人がいいのだが正直に言うわけにもいかない。曖昧に頷くと、また七海がスマホの画面に指を走らせた。
『確かに私も稀歌のことはなによりも大事。でも松城くんはとても勇気を振り絞って稀歌に告白したと思う。きっと松城くんは稀歌と二人の時間が大事なはず』
なかなかわかっているじゃないか。
しかし稀歌は七海の気遣いそっちのけで数日前の告白に思いを馳せているようだった。
「確かに和希くんの告白はカッコよかったなあ。やっぱりああいうストレートな告白が私は一番好き。七海ちゃんもそう思うよね?」
『私は人と直接話すのが苦手だから……。手紙だと嬉しい』
「ええ〜そうかな〜」
『それじゃ私は自分の席に戻るね』
「あっちょっと待って七海ちゃん」
自席に戻りかけた七海を稀歌が引き留める。
「七海ちゃん、和希くんとも連絡先交換してくれないかな」
前髪に隠れがちな七海の目が丸くなる。
『どうして』
「七海ちゃんには和希くんとも仲良くなってほしいなって。ふたりとも私の大事な人だから。それに連絡先を交換してればメッセージで会話できるでしょ?」
なんとなく有無を言わせない響き。
俺と七海は互いに目を見合わせ……断る理由を見つけられずに結局連絡先を交換したのだった。
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