前略。元気です
響
第1話 イブは白い朝
クリスマスイブの朝、独り電車に乗った。
(え…)
そしたら風景が、ところどころ欠けていた。
木蓮がなくなっている。
それが最初の違和感だ。
伐採されたのか…と思って目を凝らしたら、
線路沿いに変わり果てた姿で残っていた。
身包み剥がれたごとく、枝も葉もない裸んぼう。
無残な幹だけが電信柱のように立つ。
往時は、立派な古木だった。
久し振りの電車だった。
半年…もっとかな?
だが木蓮の受難は現実だ。
私の記憶が混濁したわけではないみたい。
次の春が来ても、もう花は咲かない。
あの灯りのような、宵闇の薄い青に溶ける白い炎のような。
あの花を二度と見られない。
(ここも…何でこんなことになってるの?)
次は、別の駅だ。
降りない駅。正直、ここに用はない。
だけど車窓越しにでも、異質なものには目が行く。
乗客も疎らな各停電車のドアがのっそり開くと、
駅前一帯が壮大な空白地帯と化していた。
街の中心地にも近いのに、一面に広がる更地。
まるでグラウンド・ゼロ――何があった?
(ああ。市場があった場所か…)
わずかな停車時間が終わる頃になって、やっと思い出す。
それは、どうやら移転した市場の跡だった。
視界の開け具合は、ある種爽快ですらある。
確か、別の鉄道会社が近くに新駅を作るはず。
来春開業って。あちこちでポスターを見た気がする。
(もしか。ここに今から学校が建つわけ?)
新駅は新たにできる高校のために誘致したそうだ。
どうやらその駅だけが先に開業するらしい。
他には何にもないこんな場所で。
学力も校風も違う公立三校が統合されて、
新しく一つの高校になる。
かつての私の母校も、漏れなくここに収容される。
だが肝心の学校が、まだ影も形も見当たらない。
基礎工事の気配すらなかった。
重機の類も皆無で、予定地では何にも始まっていない。
(こんなでも、違うモノに生まれ変われるの?)
この廃墟みたいな更地になにか命のあるモノが出て来ても。
この電車は走っているだろうか。
来年も、また私は同じ電車に乗れるだろうか?
どうでもいいことをとりとめもなく考えている内に、
電車のドアが無機質に閉まった。
――もう考えるな。
そう言われている気がした。
この時期は、どうも感傷的になるらしい。
失くしたものばかり数え上げるのは、私の悪い癖だ。
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