元いじめられっ子、20年前にタイムスリップし、高校生活をやり直す

@fujimiyaharuhi

第1話

 水道の蛇口から水滴がポチャリと落ちる。学校のトイレで用を足していた。電気は通っているが、廊下は薄暗くて緑色の照明が点いているだけだった。俺は深夜の学校を訪れていた。トイレから出ると、廊下を歩いて1-A組の教室に向かった。廊下を歩く足音がカツンカツンと鳴り響いていた。学校の作りも古いためか、俺の足音は響いている。


 廊下の奥は真っ暗で、吸い込まれるような暗闇が広がっていた。1年の教室は四階にあり、俺が歩いている廊下も、四階のものだった。教室の扉を開けると、俺の机を探した。机の上に落書きがされていた。俺への悪口が書かれていたのだ。机の中を見ると、汚れた雑巾と、ノートが入っていた。ノートを開いてみると、そこにも悪口が書かれていたのだった。


 2005年の話になる。俺は学校を不登校になり、家に引きこもっていた。


 ノートを元の位置に戻し、俺は教室を出ていった。


灰島ノ平高校は東京の住宅街にひっそりとある高校だった。偏差値は45くらいで、決して頭の良い学校ではない。15歳のときの自分は勉強が嫌いで、怠惰な子供だった。性格は暗くて、いじめられるには良い的だったのだろう。


 家に帰ると、居間で話をしている母親と目が合った。


「あんた、何かあったの?」

「いや、特に何もないけど」


 母は訝し気な目を向けてきたが、俺は無視をして二階にあがっていった。自室に入ると、綺麗に片付けた部屋で、何か読める本を探した。漫画本ばかりで、興味深い本は一つもなかった。2005年はインターネットも黎明期で、携帯電話もガラケーだった。スマートフォンもなく、俺は携帯電話すら持っていなかった。パソコンもなく、この当時の家庭用ゲーム機の最新版が物置きの中に眠ることになった。

 

暇つぶしに、腕立て伏せをしてみたが、すぐに筋肉が悲鳴をあげた。なんて弱弱しい体なんだ、と引きこもっていた自分を恥じる。


次の日になり、俺は制服に手を通した。居間に降りてくると、まだ朝食は作られていなかった。時刻は7時で学校に行く時間だったが、両親は俺が学校に行くと考えていなかったのだろう。朝食もなく、起きてすらいなかった。仕方なく、冷蔵庫にあるあり合わせで食事を済ませると、学校に登校することにした。

 

 教室の扉を開ける。目が合った男は、背が高くて髪を立てていた。ジェルか何かを使っているのだろう。この時代にもそういうものがあったんだと、少し不思議に思う。


「くはっはは、伊藤、よく来たな。トイレに行こうぜ」


 俺は目の前の男のことを観察する。恐らく、この男にいじめられていたのだろう。もしかしたら、他にもいじめに加担していた人間がいるかもしれない。真っ直ぐに目を向けていると、目の前の男はぐっと目に怒りを込めた。


「生意気な目をしやがって」


 男はところかまわず、俺の顔面に向かってパンチをしてきた。けれども、パンチをするにしても、肩から後ろに二の腕を引いているし、視線の位置からも男が何処に殴ってくるかも、一目瞭然だった。この程度のパンチならと、俺はあえて避けずにいたのだが、拳が俺の顔面を捉えたときに後悔した。俺の体はそこまで強くないということだ。


 後ろに吹っ飛ばされ、俺は嗚咽を吐いた。


 なるほど。この20年前の俺はこんなに弱かったのか。

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