『世界が終わる日に』 ― ゾンビになっても君が好き ―

うえすぎ

第1話「始まりの日」



教室の窓から差し込む朝の光に、僕は今日も息を潜めるように机に突っ伏していた。

いや、正確には「突っ伏しているフリ」だ。本当は机の上に顔を伏せているだけ。オタク的にはほぼ同じだ。


「ねぇ、今日も机の上で寝てるの?」

あ、ゆかちゃんだ。教室のドアを開けた瞬間、鋭い声が響く。振り向くと、眉をぴくりと上げ、僕を見下ろしていた。


「起きろよ、寝ぼすけ君」


僕は心の中で小さくため息をつく。

「寝ぼすけ君」なんて呼ばれると、ますます居場所がなくなる。でも、嫌いじゃない。いや、むしろちょっとドキッとする。いや、だから何だって話だけど。


「ったく……あんたって本当に間抜けね」

ゆかちゃんは黒板の方に歩きながら、ちらっと僕を見て笑った。その笑顔に、僕の心臓は小さな花火を打ち上げる。毎回同じで、毎回同じに痛い。




ゆかちゃんは鞄から何やら取り出した。

「ほら、これ。貸してあげる」


机の上に置かれたのは、ゆかちゃんの好きな漫画だった。


「えっ……? これ、ゆかちゃんの……?」

「当然じゃん。読んでみたいって言ってたでしょ。返すのは次の授業の前までね」

言葉の端々に小馬鹿にした笑いが混ざる。でも、妙に心地いい。


僕は慌てて「あ、ありがとう……ゾンビのやつだ!」と返す。声は小さく、でも心臓は全力で跳ねていた。

――これが日常。平和で、ちょっとドキドキして、でも、なんとなく特別だった。





授業が始まる直前、窓の外で小さな悲鳴が響いた。

「え……?」

振り返ると、廊下の向こうで誰かが倒れている。


でも、まだ僕には、ただのいたずらかなと思える。

――いや、きっと気のせいだ。学園の朝は、今日も平和のはずだった。


ゆかちゃんは僕の腕を軽くつかみ、前へ引っ張った。

「ほら、こっちに来なさい。転ぶ人の観察は趣味じゃないでしょ?」


僕は心の中で「うわぁ……守られてる……」と震えた。

でも、目の前の出来事にはまだ気付かない。小さな混乱は、あくまで学園ラブコメのスパイスに過ぎない。




放課後、教室に残って漫画を読んでいた僕は、小さなため息をついた。

「今日は……ゆかちゃんに少し近づけたかな」


その時、窓の外に不自然な影が動いた。

風か……?いや、違う。


僕は思わず息をのむ。

――これは、ただの学園生活では終わらない何かの始まりかもしれない。

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