第2話
ゆうが去った後、生徒会室にいた会長――信彦
「ねえ、じゅり……やり過ぎだと思うよ」
ふわり、と。
明吉の背後からそっと彼を抱きしめたのは、長い黒髪の少女だった。
旧制服を纏っている彼女は過去の人間である。現在は、幽霊の少女――
「……明吉くん、あの子を生徒会に入れるの?」
しないで、とは言えないようだ。
あくまでも、明吉の考えを尊重しますよ、というスタンスだが、不満なのが分かりやすい。
「仕事ができるなら考えるね……まあ、やっぱり悩むけど」
「私がやるよ? お仕事……明吉くんが振ってくれるなら」
「じゅりじゃできないでしょ?」
「で、できるけど!? むっすー、よ。ひどいわ、明吉くん……」
――明吉が生徒会長となった去年から、一年間、ずっと一緒だったパートナーだ。
生徒会室の幽霊。
過去の生徒会役員だったらしい。本人はかつての生徒会長だったと言うけれど、記録がないため実際にそうだったかは分からない。
彼女が見栄を張った嘘かもしれないが、それならそれでいいとも思っている。
明吉にとって、そんなことはどうでもよかったのだ。
ひとりきりの生徒会だと思っていたらもうひとりいた。
彼女は幽霊だったけど、居心地が良い一年間を過ごせたのだ。
ひとり生徒会のスタイルを崩さないのも、彼女がいてくれるから、だ。
「あのー……明吉くん……」
「どうしたんだい? またなにかやらかした?」
う、と目を逸らしたじゅり。
彼女、なにか失敗でもしたようだ。
「言ってごらん? 怒ったりしないから」
「……うん。さっき、脅した西織……ちゃん」
「うん」
「名前、覚えてるのね」
「名乗ってくれたなら覚えるよ。それで?」
「その……ね? 彼女のあれ、目覚めさせちゃったかも……?」
目覚めさせた?
さっきのショックのせいで……?
「うん。あの子、怪奇現象によく出会う体質になっちゃったかも……?」
#
じゅりの懸念通り、ゆうは怪奇現象によく出会うようになった。
幽霊はもちろん、呪いにも敏感になっていて……、見えるだけでなく霊的な相手から触られることも多くなった。
おかげで耐性がついた面もあるのだが、しかしこれまでは出会っていなかったのだから、耐性がついてもいらないリスクを背負ってしまったことはやはりマイナスだろう。
抱え込まなくていいことを抱えてしまっている。
ろくに眠れない日々を過ごしたゆうが、がまんの限界を迎えてフラフラな足取りで生徒会室へ。
今度は生徒会への志願ではなく、相談だ。
なんとかしてくださいよ! というクレームでもある。
「――怪奇現象に悩まされてるんだね? だと思ったよ」
「……知ってるんですか?」
「解決方法は分からないけど、相談には乗ってあげられるかな。ほら……出てきなよ、じゅり」
あの時と同じように、部屋に広がる黒い影。
罪悪感があるようで、ゆっくりと顔を出した黒髪の……幽霊。
自分のせいでゆうの体質を変えてしまったのだ。
自覚があるようで、じゅりはゆうの目を見ることができなかった。
「あ……綺麗な人……」
「うぅ……。明吉くん、この子、生徒会に入れてあげないの……?」
「じゅりがそんなことを言うなんて珍しい。初めてかもね。それだけ罪の意識を感じてるんだねえ……、いいよ。じゅりが認めたのなら、生徒会へ加えてもいい」
「み、認めてはないわよ!? ないけど、やっぱり、その……っ」
罪の意識。それがじゅりの中で膨らみ続けていた。
「え、生徒会、入ってもいいんですか?」
「撤回する気はないよ。ただ……西織さん、生徒会へ入ることで今の君の悩みが解決するかもしれないし……同時に、悪化するかもしれない。どっちに転んでも納得してくれるよね? 僕たちにもできることは限られているんだ」
「…………それは……」
「君自身が決めるんだ。返事は待つよ――真面目に考えて、答えを出してほしい」
「…………」
返事を保留にしてもらい、会長と別れた。
帰り道――町中で不良生徒、相模と出会う。
彼、今度は道端でお酒を飲んでいた。
「…………、あんたねえ」
「うげ、偽善者め。いや、偽善者にもなれてないんだろ、空っぽ女」
「…………」
「ちょ、胸倉掴んでなにすっ――おいどこに連れてく気だ!?」
掴まれても振り払わないあたり、女子の扱いには一応気を遣っているようだ。
――相模を連れて、生徒会へ引き返す。
保留にしていた返事を、すぐにしようと思ったのだ。
「――会長っ、悪化しても文句は言いません、わたしにはコイツがいるので!」
「おおぃなんの話だっ、なんのつもりだコラ離せ!!」
さすがに、不良生徒を生徒会役員にはできないが……しかし、ゆうの助っ人としては認められるようだ。
それから、なんだかんだ文句を言いながらもゆうと過ごすようになった相模。……案の定、彼にも異変が出てくるようになった。
そう、彼もまた、怪奇現象によく出会う体質になってしまったのだ。
つまり――、
「悪化したわね。しかも、男の子の方も道連れで」
「でも、ふたりとも楽しそうじゃないかい? そうは思わないかな?」
生徒会室で言い合いをしているふたり。日常茶飯事であるが、もはや明吉もじゅりも止めなかった。止める必要がない、これはじゃれ合いだ。
「ふたり一緒なら呪われても怖くない! あははっ、不良なのが悪いのよ、バチが当たったんだからこれを機に改心しなさいよ!」
「ざけんな! てめえのせいで色々と湧いて出てくるようになって……っ、オレのところになんかいろんな幽霊がやってくるんだがどうしてくれるんだ!!」
必然、接点ができたふたりは最初の犬猿の仲から――喧嘩は毎日しているが、しかし距離は着実に縮まっていた。
四六時中一緒、と言えるほどには青春していた。
ゆえに、ふたりを見て羨ましがったじゅりが密かに企んでいる……
「明吉くんを追い詰めれば、私との仲も深まるんじゃ……??」
「じゅり? 余計なことはしなくていいからね?」
・・・ おわり
ひとり生徒会と幽霊役員 渡貫とゐち @josho
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