拾った子犬を育てたら、気高きフェンリルに育ってしまって、街の女の子たちみんなに溺愛されまくり、俺は完全に無視されるんだが
ゼリオニック
第1話 1-1 俺、子犬を拾った。
ラントン領の厳しい冬の只中、剣のように鋭い風が夜の闇を進む歩兵部隊を切り裂いていた。
ラントン領は毎年雪が降るほど寒い場所ではないが、この時期になると心底凍えるような冷え込みになる。
「リオン、今日はお前も同行しろ」
朝食の席で父が俺に言った。俺はちらりとミトラ――本当の妹――の方を見た。
「私に恥をかかせないでよね、リオン」
彼女が小声で囁く。
俺は乾いた笑みしか浮かべられなかった。
これが俺にとって初めての盗賊巣窟への突入だ。
ラントンの伝統では、十二歳の子供は自分を証明しなければならない。
訓練ではなく、本物の血で。
俺、リオン・ラントン。ラントン市の男爵家三男。現在十二歳。
父である男爵の追討作戦に参加し、自分を証明するために。
俺は凍てついてひび割れた大地を踏みしめ、葉を落とした木々が立ち並ぶ森を進み、切り立った岩山へと向かった。
進むほどに風は激しさを増し、肌を切り裂くほどだった。
仕方なく襟を立てて鼻まで隠す。
ラントンは「蛮人の土地」と呼ばれるが、実際のところ俺たちの戦士は強く、規律正しい。
「ここから先はラントン領の外だ」
父が戦士たち全員に告げた。
彼らは一斉に頷き、右手で武器を固く握り、いつでも抜ける体勢を取った。
今回の目標はラントン領の外にある。
そのため俺たちは静かに移動し、素早く掃討し、痕跡を残さない。
山を越えると、再び深い森が広がった。
枝が風で擦れ合う音が、闇の中を進む俺たちの足音よりも大きく響く。
ラントン人はそれを伝統と言ってもいいほど繰り返してきた。
誰にも許可を求めず、懸賞金も口にせず、脅威を排除して帰る。
それが俺たちのやり方だ。
そしてついに、俺たちはある洞窟にたどり着いた。
松明の薄暗い光が揺れ、煙の匂いが辺り一面に充満している。
今は誰もが暖を求めているため、火は普段より強く焚かれていた。
しかし燃料が夜露に濡れていたせいで、煙と匂いが特にひどい。
父が合図を送ると、全員が音もなく位置についた。
まるで焚き火の周りを踊る影のようだ。
「行け」
父が軽く手を振る。
それを合図に全員が突入し、俺も続いた。
金属がぶつかり合う音が洞窟に響き渡り、血が飛び散って床を染めた。
俺の愛用の釘付き木製棍棒が回転する。
全力で敵の顔面に叩き込む。
骨が砕ける乾いた音が鳴り、兜が歪んで飛び、目の前の敵が即座に倒れた。
血が飛び散る。
「もう一人!」
俺は体を翻し、突進してきた盗賊の胸に蹴りを入れる。
彼は後ろに吹っ飛び、洞窟の壁に叩きつけられた。
そのまま飛び込んで棍棒で追撃する。
飛び散る血の生臭い匂いが充満し、俺の顔は粘つく赤い液体でべとべとになった。
胃がむかつき、心が必死に止めようとする。
しかし俺は歯を食いしばって耐えた。
これが俺の証明だ。これがラントンの道だ。
その時、後ろから敵が現れた。
俺は再び回転し、愛用の棍棒を全力で振り抜く。
しかしその男は素手で俺の棍棒を受け止めた。
「ラントンの野郎どもがぁ!!」
男が怒りに満ちた声を上げる。
彼は大柄で、鮮やかな色のマントを羽織り、盾の紋章をつけていた。
だが、騎士であろうと脱走兵であろうと、死体から剥ぎ取った服を着た盗賊であろうと――
敵は敵だ。
排除するのみ。
男は俺の棍棒を掴んで引き、俺の体勢を崩した。
俺は棍棒を離し、もう一方の手で腰の短剣を抜こうとした。
しかし男は足で俺の手を蹴り、短剣を弾き飛ばした。
そして俺を蹴り飛ばし、数歩分吹っ飛ばした。
他の貴族家ならここで兵が「若様!」と叫んで助けに来るだろう。
だがこの戦場で、誰も俺のことなど気にしない。それがラントンだ。
敵が剣を抜いて突進してきた。
しかし死を覚悟したその瞬間、俺は無魂の屍体の上に倒れ込み、手に剣を掴んでいた。
俺はその剣を奪い取り、男に飛びかかった。
剣と剣がぶつかり合い、甲高い音が響く。
俺の目は殺意に満ちていた。
人間同士で命を賭けた戦いは初めてだが、俺にとって一度線を越えた人間は化け物だ。
しかし力では互角でも、剣術と経験では敵わなかった。
俺の剣は弾かれ、顎に剣の柄を叩き込まれて意識が朦朧とする。
体が崩れ落ち、俺はただ彼が剣を振り上げるのを見ているしかなかった。
歯を食いしばる。
今日で俺の命は終わりか。
心臓が激しく鼓動し、手が震える。
母さんは悲しむだろうか? それとも息子が勇敢に死んだと誇りに思うだろうか?
いや、
俺はまだ死にたくない。ミトラに一度だって勝てていないのに!
だがその時――何かが俺の命を救った。
一本の剣が背中から男の胸を貫いた。
俺は息を乱し、心臓が破裂しそうになるほど鼓動した。
近すぎる。恐ろしいほどに。
恐ろしい敵の体がゆっくりと倒れ、その背後に小さな影が現れた。
「ミトラ……」
十歳の少女が凛と立っていた。
俺の本当の妹。
金色の髪が揺れ、可愛らしい顔に自信たっぷりの笑みが浮かぶ。
口は悪いが腕は確か。
彼女は五歳から剣を握り、この兄である俺が一度も勝てない存在になった。
そう、彼女こそが男爵家食物連鎖の頂点に君臨し、俺を召使いたちと同じレベルまで蹴落とした存在だ。
「立てるでしょ、リオン」
妹はハスキーな声で呼び、微笑みは可愛いのにどこか気品がある。
彼女は五歳からこの苛烈な道を歩み、俺より早く、そして今日一緒に「純粋さの境界」を越えた。
しかも表情一つ変えずに。
少しだけ、この子の将来が心配になった。
戦闘は終わり、敵は全員屍となった。
「よくやった、リオン、ミトラ」
父は冷たく厳しい声で褒め、俺たち二人の頭に手を置いた。
俺たちが倒した男は頭目で、他国の騎士だった。
残りの部下も全員兵士だったらしい。
洞窟を調査していると、突然妹が大声で叫んだ。
「父さん! リオン! こっち来て!」
ミトラが指差した一室には、鉄の檻が数十も並べられていた。
泣き声が響き渡り、死体置き場のような強烈な悪臭が漂う。
「女と子供……」
俺は呟き、檻の中の痩せ細った女たちと子供たちを見た。
風に飛ばされそうなほどやつれ、すでに死んでいる者もいて、悲しい臭いを放ち始めていた。
「人買いたちか」
父が言った。声は硬く、顔が歪み、息が荒く、拳を握りしめて甲冑が軋む音がした。
「この卑劣な連中が、俺たちの領民を売るつもりだったというのか!!!」
父が怒りを爆発させる前に、ミトラが檻の前に駆け寄った。
「怖がらないで。私たちはラントンよ。助けに来たの」
優しい声で言い、ポケットからパンを取り出して檻の中の女性に差し出した。
「怖くないから、これ食べて」
女性は震えながらも手を伸ばし、受け取った。彼女は微笑み、もっとパンをと手を振った。
「優しいね」
俺が顔を近づけて囁く。
「別に。お腹を満たすのが一番早く心を落ち着かせる方法だからよ」
妹は平然と答えながら、口元に小さな笑みを浮かべた。
さすが家の頂点に立つだけある。
食料が運ばれ、皆に配られた。
腹が満たされると彼女たちは俺たちを信じるようになり、服を探して着せ、連れ出す準備をした。
だが俺が背を向けた瞬間――小さな子犬の鳴き声が聞こえた。
俺はその声のする方へ行き、小さな檻を見つけた。
「おい、ミトラ、ちょっと来てくれ。兄貴が助けを必要としてる」
妹はすぐにやって来て、俺をちらりと見てから大きく息を吐き、笑みを浮かべた。
「この檻開けてほしいんでしょ?」
見透かしたように言う。いや、いつだってこの妹に心を読まれないことなんてなかった。
だから俺はどんなことでも一度も彼女に勝てなかった。
まあ、少なくとも妹は時々しか俺をいじめない。
それが、たまに心を読まれても安心できる理由だ。
妹は髪留めのピンを取り出し、錠前をごちょごちょと開けた。
檻が開くと、中には銀色の毛並みの弱々しい子犬が横たわっていた。
俺はすぐに抱き上げた。
体は氷のように冷たく、このまま死にそうだった。
俺は胸に抱きしめた。
子犬は静かに小さく鳴き、まるで親の胸にいるかのように体を預けた。
ミトラが顔を近づけて子犬をじっと見つめる。
「この顔、兄貴にそっくりね」
妹がからかうように言う。
でも怒る気にはなれなかった。だって彼女が助けてくれたんだから。
ミトラは鼻歌を歌いながら父さんのところへ駆けていき、大声で叫んだ。
「父さああん! リオンが犬を飼いたいってえ!!」
――これが、すべての始まりだった。
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喫茶店の魔女さんの話を放り出したまま、また別の新しいお話を急に生やしてしまって、本当に申し訳ありません。
実を言うと、この物語はX(旧Twitter)でのリプライ交流から生まれたものなんです。でも、そこからアイデアがどんどん溢れ出してしまって、自分でも止められなくなってしまいました(笑)。
はい、というわけで、これからはリオン君と一緒に、気の向くままに走っていこうと思います。
この物語は、のんびりとした「スローライフ」ですからね。
拾った子犬を育てたら、気高きフェンリルに育ってしまって、街の女の子たちみんなに溺愛されまくり、俺は完全に無視されるんだが ゼリオニック @Xerionic
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