転生したけど前世の記憶が無いのでとりあえず父親探しの旅に出ます。

言描き

プロローグ




 駆ける。


 駆ける。


「はぁっはぁっぐっはぁっ」


 駆ける。


 駆ける。


「はひゅっはっはっはぁっ」


 足がつりそうだ。息も乱れる。


「はっはっはっ」


 それでも駆ける。


 駆ける。


もう少し

あと少し


 見慣れた扉が見えた。


「はっはっはぁ。ふっ。」


 思いっきり、階段をひと飛びで駆け上がる。

 焦げ茶色の扉。


着いた。

間に合った。

赤ん坊は大丈夫か。


 手に抱えていた赤ん坊は、何事も無かったかのようにすやすやと寝ている。ほっと安心。


いや、安心するにはまだ早い。


「誰か!誰か居ないか!」


 扉をダンダンダンと叩く。反応は無い。


「チッ」


時間が無い。


 急いで背嚢リュックを外し、硬い石の上に敷く。

 おくるみに包まれた赤ん坊をそっとその上に乗せ、胸元から手紙を取り出し、赤ん坊の横へ。


ごめんな。


 まだこんな小さな小さな赤子を独りにしてしまう事実に、ぎゅうと心が痛む。


出来れば連れて行ってやりたいさ。

出来ることならば。


 そんな想いに抗いつつ、その場を離れようとした時。

 はたと赤ん坊の目が開き、その純粋な濃紺の瞳と目が合った。


泣き出すかな?

 

 と思ったが、泣かないらしい。

 

強い子だ。


「ここのおばさんは良い人だからな。もう大丈夫、安心だよ。」


 そっと赤ん坊の頭を撫でる。


「ごめんな。こんな父親パパで。」


 柔らかな髪の感触。

 まだ何も知らない、あまりにも無垢な目がこちらを見つめる。


そんな目で、俺を見ないでくれ。


 その無垢な視線から逃れるように、くるりと後ろを向く。


行かなければ。


「あうーあ」


 呼びかけるような声に涙が溢れそうになるが、足を止めている暇は無い。

 

 再び走り出す。


止まってはいけない。

止まってはならない。



彼女の想いを、無駄にはしない。

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