第17話 無力の底、あるいは復讐に似た研鑽


ぼくは…弱い。


 元の世界でも思い知ってたはずだった…。


 この世界で更に思い知ったはずだった…。


 こんなにも…こんなにも、自分の非力を呪ったことはない。


 好きな女の子のためにさえ何も出来ない……。


 情けない。うつむきながら歩く


「強くなるんじゃなかったのかえ?」


「ワシを守ってくれるんじゃなかったのかえ?」


「………………………」


「ふむ……ではワシとの友の絆もここまでじゃ。さらばじゃ」


 フレイの気配が遠のいていく...


「待って!」


「む?」


 ぼくは叫んでいた。情けなくて、惨めで、消えてしまいたい。けれど、それ以上に。


「もう…いやだ……」


「なにがじゃ?」


「もう、嫌なんだ……っ! 自分の弱さが、何もできない自分が、死ぬほど嫌なんだ! 力が…力が欲しい!!」


リス(フレイ)はふさふさの尻尾をふりふりさせながら厳しいセリフを吐く


「じゃが…ここにはチートとやらなどありゃせんぞ。ワシも手助けはせん」


「わかってる! 自分の手で、今の自分にできることを全部やる! 汚泥を啜ってでも、あの子の隣に立てる力が欲しいんだ!」


フレイは一瞬、驚いたように目を見開いた。そして、不敵に口角を上げた


「……ならば、その覚悟が本物か、見極めてやろうぞ」


 ぼくは、そう言うと、闇市に向かっていた。


 闇市には闇市というだけあって様々なものも売られている。


 せっかくクロスボウについて学んだんだからクロスボウを探そう。


「うん? 初顔だな?」


「クロスボウでいいのありますか? 非力なので使い回しと言うか取り回しやすい物が欲しいです」


「そうだな…2つほどあるがどちらかを選ぶがいい」


 武器屋は説明を始めた。


「1つ目がコンパウンドクロスボウだ。滑車の力を使うからより弱い力で弓を引くことができ強い矢を射る事ができる」


「ただ、滑車の部分が故障しやすい」


「2つ目がピストルクロスボウだ。小型で取り回ししやすくて片手で操作できる。ただその分威力は弱い」


「コンパウンドクロスボウが200ファナン。ピストルクロスボウが150だ。両方に矢を30本つけるぜ」


「コンパウンドクロスボウの方がいい。 とりあえず力が欲しいんだ。弱いのはもう嫌だ」


「200ファナンだ」


 全財産に近い二百ファナンを支払い、武器を掴む。ずっしりとした金属の冷たさが、ぼくの覚悟を補強するようだった。


 その日から、ぼくの生活は一変した。


 一日おきに汲み取り屋の仕事をし、聖職者たちの糞尿を浴びながら報酬を稼ぐ。


そして、空いた一日は、吐くほどに自分を追い込む修練の時間に充てた。


―――誰もいない町はずれ


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!!」    


走る。筋を違えるほどに弓を引き、矢を放つ。


一時間、二時間、三時間。腕が震えて狙いが定まらなくなっても、歯を食いしばって弦を引いた。


ただ数をこなすだけじゃない。イリスを犯した男の顔を的に重ね、これを外せば彼女が死ぬ、ぼくが死ぬと自分に言い聞かせた。


立って射ち、膝をついて射ち、転がりながら射つ。  


手のひらはマメが潰れて血に染まり、全身の筋肉は悲鳴を上げ続ける。


けれど、あのとき彼女に言われた「100ファナンよ」という絶望の声が耳にこびりついて離れない。


それが、ぼくを極限の先へと突き動かしていた。


「……まだまだ、だ。こんなもんじゃない……っ!」


泥を喰らい、臭気にまみれ、それでもぼくの瞳にはかつてない光が宿っていた。


非力なニートが、初めて掴んだ「戦うための意志」


それは、イナンナの空に沈む夕日よりも、鋭く赤く燃えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る