第13話 叡智の断片、あるいは凡人の選択



 王立図書館に入ると、荘厳な雰囲気に圧倒される


 古代魔法を解読しようとするもの…真理に挑もうとするもの…用途は人それぞれだ


 館内は静かながらも、叡智に触れたい、触れようとする人々の熱さを感じる


 ぼくはまず元の世界になかった、そして友の大得意な分野である魔法について調べたくなった


 RPGで初歩中の初歩……ファイヤーボールだけでも会得することができれば大きな力になる


 そう思い火の魔法の本を閲覧してみる


 見てみると[初めての攻撃魔法]という、恐らく元の世界で言うところの小学生向きの本があった


 これを手に取り早速席に座って読んでみる


 ――――――――――。


 ダメだ…さっぱり理解できない


 まず前提からわからないようだ


 思念を形にするには体内のマナから取り出す必要があるようなんだが、まずマナの感覚がぼくにはない


 頭を抱えていると、本を抱えたリス(フレイ)が通りかかった


 ぼくは他の人に迷惑がかからないように静かに語る


「…フレイ…フレイちゃん……ちょっといい?」


「なんじゃ? なにか質問かえ?」


「魔法のファイヤーボール習得したいんだけどさ、マナってなに?」


「ヌシ……いや……こっちにこい」


 そう言うとフレイは歩き始めた


 入ってきた門とは正反対に少しばかり行ったところが中庭になっていた。


「ここならいいじゃろ」


「ごめんね。…でマナってなに?」


「マナとは様々なものの基本じゃ。人体だけではなく世の中のもの全てに存在するもの」


 フレイは説明を続けた


「この図書館の柱一本にでもマナは存在する」


「もちろんヌシにもな」


「じゃ、じゃあぼくも魔法をつかえるの?」


「もちろんじゃ。じゃが…ヌシはあまりにも遅すぎる」


「え? 手遅れってこと?」


「簡単に言えばそうじゃな」


「普通は幼い頃からマナを取り出して地面に絵を書いたりして遊びながら学ぶものじゃ」


「そして先天的な素養も見ながら親は子供にどういった道が適しているか示すのじゃ」


「ただ……先天的なものだけではなく後天的に開花する人もいる。極めて稀にじゃがな」


「ヌシの知り合いで言えばイリスという娘がいるじゃろ? あやつがそうじゃ」


「イリス! イリスが?」


「うむ。辛い人生だったじゃろの……」


 フレイは少し表情を曇らせた


「素質のカケラも感じないが現在のマナは相当なものになっておる」


「恐らくは普通の人ならば挫折と途方に暮れるところを信念だけでマスター級の魔道士になりつつある」


「陰の努力は凄まじかったじゃろの」


「ただ…。これは…いや……なんでもない……」


「そこまで言っといて…気になるから教えてよ」


「魔道士、魔法使いというのは戦いにおいて真っ先に敵に狙われるということを知っておるか?」


「え? 盾役というか騎士たちじゃないの?」


「正確にはちがう。緒戦においてはそうじゃがな」


「魔道士、魔法使いというのは攻撃、回復だけでなくバフ、デバフも味方敵に付与する」


「うんうん。RPGでも遊んだから知ってる」


「あーるぴーじー??? まぁよい」


 フレイは首を傾げながらも続けた。


「理解しておるのはわかるからの。説明が早くてこちらもやりやすい」


「いわば戦いにおけるキーパーソンというわけじゃ」


「ここが1番の肝じゃからよーく聞けよ」


「う、うん」


「つまり優秀な魔道士、魔法使いというのは優秀な戦略家でもあるということじゃ」


「どのタイミングで攻撃するのか、回復するのか、敵の特徴を掴んでバフデバフをかけるか……」


「戦いにおいての勝敗を握ってると言ってもよい」


「た、確かにそうだ……シミュレーションRPGなどでは真っ先に敵の魔道士を倒してた」


「見たところ、イリスという娘は戦略眼…決定的にそれが欠ける」


 フレイは残念そうに言った。


「これはマナの大小という素質以前に魔法使いの素養に欠けていると言ってもよい」


「そ、そうなんだ…イリスが……」


「ところで、どうしてそこまでわかるの?」


「ワシが魔物が出ないように結界を張っているのは知ってるじゃろ」


「結界には同時に千里眼というものも備わっておる」


「結界内にいる者の全ての動きなど全部知ることができる。何を考えてるか? までな」


「もちろん普段はそんなことしてないから安心するがよい」


「状況に応じてその者の過去に遡って一瞬で知ることができる」


「だ、だからぼくの考えてることがわかったんだ!」


「ふふふw そうじゃ」


 フレイはニヤニヤしながら言った。


「初めての蒸し風呂でそこそこキレイなお姉ちゃんに誘われたとき心から後悔しておったろ?」


「お金があればなー。くそっ」


「や、やめてよ! こんなところで!」


「おや? イリスとかいう娘のことがwww」


「も、もういいって!」


 ぼくはそう言うと別の本を探しに行くことにした。


「ワシはもうちょいかかるからの。研鑽せーよ」


 フレイとわかれると、自分の立ち回りについて考えてみる


 ぼくは非力だ。前衛で盾役は無理だろう


 かと言って…今の話を聞く限り魔道士の道も厳しそうだ


 盗賊…シーフも技術をマスターするには、それ相応の時間がかかるのは確実だろう


 ぼくにできること―――。


 そんな事を考えながら本を探す。


 すると一つの本が目についた……[武器大全]。


 ぼくはそれを手に取り見る――。


 それを見ていたとき、答えが見つかった気がした……。


 「……クロスボウ(石弓)」


 RPGでは軽視されがちな地味な武器。けれど、そこにはぼくにとっての「希望」が書かれていた。


弓のように強靭な筋力を必要とせず、誰でも引き金を引けば一定の威力を出せる。


そして、狙いを定める集中力さえあれば、非力なぼくでも「戦力」になれる可能性がある。


(これだ。これなら……練習次第で、ぼくにも使えるかもしれない)


最前線で英雄にはなれないけれど、戦場を後ろから見渡し、冷徹に狙いを定める――フレイが言った「戦略家」に近い立ち回りが、これならできるかもしれない。


ぼくはその後も時間が許す限り、クロスボウの戦い方などの本を読みふけった…。


「もうそろそろいい時間じゃ。帰るぞ」


 フレイの声に顔を上げる。


 窓から差し込む夕日は、ぼくが手にした本を赤く染めていた。


 魔法使いへの道は閉ざされた。けれど、ぼくはこの日、初めて「異世界で戦うための武器」を見つけ出したのだ。

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