『ぼっち・ざ・ダンジョン! 〜最深層に引きこもってたら最強になってたみたいですが、モンスターより人が怖いです〜』

@knight-one

第1話 ぼっちは今日もダンジョンに住んでいる

 人と話すのが苦手です。

 ――いや、違う。


 人と話すのが“無理”です。


 声をかけられると、脳内で

「今ここで最適な返答を選ばないと人生終わる会議」

 が即座に開催され、

 結論が出る前に沈黙して、

 結果として感じの悪い人になる。


 詰み。


 なので私は――


 今日もダンジョンに住んでいます。


     ◆


 ダンジョン最深層・簡易拠点。


 岩壁を削って作った小さな空間に、

 焚き火と、保存食と、寝袋と、

 あと、山積みのよく分からないレア素材。


「……今日も、静か……」


 声に出してみる。

 反応はない。

 完璧。


 私はフードを深くかぶり、壁にもたれて座る。


(あ〜……落ち着く……)

 

 ダンジョンにひきこもるようになって、はや数年。

 正確に言うと「ほぼ住んでいる」。

 家より長時間いる。

 もはや実家:ダンジョン。


 ここには人がいない。

 会話もない。

 視線もない。

 最高。


 外の世界では、

 人は急に話しかけてくるし、

 愛想笑いを要求してくるし、

「普通こうするでしょ?」を押し付けてくる。


 でもダンジョンは違う。


 モンスターは

「殺るか、殺られるか」

 しか考えていない。


 分かりやすい。

 誠実。


 最高のコミュニケーション相手なのだ。


     ◆


 今日の巡回。


 最深層を、いつものルートで回る。


(……あ、左の通路、湧き直してる……)


 魔獣が現れる。

 大きい。

 強い。

 普通ならパーティ推奨。


(無理無理無理無理……こんなの無理……)


 心の中で全力で弱音を吐きながら、

 体は勝手に動く。


 一歩。

 間合い。

 斬る。


 魔獣は、倒れる。


「……ぎ、ぎりぎりだった……」


 毎回言ってる。

 でも本当にギリギリだった気がする。

 たぶん。


 ドロップを確認。


(え……また伝説……?

 いや、たまたま……たまたまだから……)


 アイテム欄を即閉じる。

 深く考えると怖い。


     ◆


 狩りが終わったら、拠点に戻る。


 焚き火に火を足して、

 保存食を温めて、

 一人で食べる。


「……いただきます」


 返事はない。

 でも、寂しくない。


(……本当に……寂しくない……よね?)


 その考えが浮かんだ瞬間、

 私は頭をぶんぶん振った。


 考えるな。

 私はぼっち。

 ぼっちは孤独を感じたら負け。


     ◆


 そのとき。


 ――遠くで、音。


 金属がぶつかる音。

 足音。

 そして――


「……え?」


 人の、気配。


(いやいやいやいや)


 ここ、最深層。

 普通、人来ない。

 来たらダメな場所。


(幻聴……?

 ついに孤独が限界突破して、

 人の気配を捏造し始めた……?)


 でも、音は確かに近づいてくる。


 私は、岩陰に身を潜めた。


 心臓がうるさい。


(やだやだやだ……

 話しかけられたらどうしよう……

 “ここ何階ですか?”とか聞かれたら、

 もう人生終わる……)


 通路の向こう。


 一人の少女が、姿を現す。


 軽装。

 剣を握る手が、少し震えている。


(……初心者……?

 なんでこんなところに……)


 少女は、こちらに気づかない。


 でも、この先には――

 さっき倒し損ねた魔獣の気配。


(あ……)


 私は、息を呑んだ。


 ――ひとりでいるのは、好き。


 でも。


(……見捨てるのは……

 ちょっとだけ……無理かも……)


 フードを深くかぶり直し、

 私は、静かに一歩を踏み出した。

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