スカイブルーのトレジャーハンター番外編

桜井もみじ☆

01 入れ替わっちまった輝と太陽

01 太陽

 その日、オレは輝と階段を先にてっぺんまで駆け上がれるのはどっちかで勝負をする事にした。

 だって酷いんだぜ? 自分は鍛えてるからオレと違って動けるとか言い出しやがったんだ。確かにそうかもしれねぇけど、オレの方が素早さは上だぞ。輝のが絶対ノロイ。

 負けるなんて言葉、オレの辞書にはねぇ。

 だから、一番上で審判をやらされてる零と

一番下で嫌そうにスタートを言うサムの二人が、面倒くさそうに協力してくれた。

 放課後の学校で、一階から三階の階段を使って、二人で正々堂々勝負だぜ。

 オレと輝は一番下で、サムの合図を待ちながら、いつでも走れるように準備済みだ。

 そもそも、このオレが輝に負ける訳ねぇだろ。

 準備運動もきっちりやったオレは言った。

「どっからでもかかってきやがれ」

 面倒くさそうなサムが、上の階で待ってる零に言った。

「じゃあいくよ、零」

「はーい」

 零はそう返事をすると、幸せそうな目でサムを見ながら階段の隙間から顔を出した。零は楽しんでそうだけど、サムはめちゃくちゃ嫌そうだ。

 サムはオレと輝に言った。

「じゃあいい? よーい」

 オレの横で輝が準備万端の状態で階段を見上げる。オレンジ色の髪を揺らして今日も楽しそうだ。

 オレはいつでも走れるように身構えて、サムが合図するのを待った。

 一瞬の筈なのに、宝探しの冒険中より緊張する。忙しそうに仕事する心臓を黙らせながら、オレは階段を見上げて深呼吸をした。

「どん」

 その合図でオレは思いっきり階段を駆け上がった。

 一階の踊り場までで輝を追い抜けた。でも輝も猛スピードで階段を上がってくる。

 でももう二階はすぐそこだぜ。いける。この調子だったらオレの勝ちだぜ。

 その時だった。

 二階から何故かホワイトボードを持って降りてきた先生と正面衝突した。降ってくるホワイトボードマーカーに階段を踏み外したヤバい感覚。一瞬ふわっと浮いて、オレはそのまま落ちた。

「うおっ」

 自分のマヌケな声の後、オレの下でギャーって騒ぐ輝の声が聞こえた。


 気が付くと、オレは保健室にいた。見覚えのある安っぽいベッドとカーテン、隣りのベッドとの間にサムがいた。

 頭が痛い。ぶつけたのかもしれねぇ。

 起き上がろうとしたら、なんか体が重い事に気が付いた。いつもだったら降ってくる筈の、ウザくて長い金髪もない。そのかわりにオレンジ色の髪の毛が何故かほっぺたを撫でた。

「輝、ちょっと大丈夫?」

「え?」

 サムが意味不明な事を言いながら、オレの顔を覗き込んだ。すぐ横のベッドには何故かオレがいる。金髪のさらさらつやつや、零が羨ましがる髪の毛のオレが、ぐーすか寝てやがる。

 あれ?

 オレ、頭をうっておかしくなっちまったのか。仕方がない。もうすぐ二階ってところで思いっきりホワイトボードにぶつかっちまったもんな。

 痛いと思った頭の後ろに手をやると、いつもと違ってくりんくりんの髪の毛が当たった。オレ、髪の毛を切った覚えはないんだけど、肩に当たるくらいの位置までしかない。そもそも、オレの髪の毛はこんなにくりんくりんしてない筈だ。

「サム、輝は?」

「何を言ってるの? 頭打って、これ以上頭が悪くなったら洒落にならないよ」

「何言ってやがる、オレは無敵の桜野太陽だぞ」

 サムが呆然とした顔で、オレを見つめる。

 あれ? いつもだったらサムに見下ろされてる筈なんだけど、視線が同じくらいの高さだ。なんで目が合ってんだ?

「うう……」

 呻き声を上げながら、横のベッドでオレが起き上がった。オレの体の横にいた零が、オレに向かって声をかける。

「ちょっと太陽、しっかりして下さい」

「何言ってんだ、零。オレは太陽じゃねぇぞ」

 途端にサムが固まった。

「ちょっと待って、太陽だよね?」

「サム? 勉強しすぎておかしくなっちまったのか?」

 金髪を揺らしてオレが起き上がった。

 何か言おうとした零を黙らせて、サムがオレに掴みかかる。

「ちょっと待って、名前は?」

「風間輝に決まってんだろ。あれ、なんでサムそんなにデカいんだ?」

 オレの顔が、輝を名乗ってこっちを向いた。

「あれ、オレがいる……」

 もしかしてと、オレは自分の体を確認する。

 どう見てもいい感じに日焼けした肌の色、服の上からでも分かるバキバキの腹筋、制服のシャツから覗く筋肉質な腕。視界を遮る、スゲェ邪魔な長いオレンジ色の前髪。

 隣りで全く同じ事をしてるオレが叫んだ。

「嘘だ! 嘘だって言ってくれ」

「やったぜ、オレとうとう本物の男になったぁ!」

 オレは思わずガッツポーズをしながら雄たけびを上げた。

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