怨念たまご

ヤマメさくら

第1話

   1


 凝り固まった怨念は卵になった。

 僕はそれをいつも持ち歩いている。


「いつか誰かにぶつけてやるんだ」

 僕がそう言うと、彼女は笑った。

「それいいね。でも、もったいないよ」

「もったいない?」

「せっかく育てたんだし。そんな単純なことじゃなくてさ、もっとこう、別の使い道ないの?」

「別の……」

 考えてみた。でも、別の使い道は思いつかなかった。だから彼女に卵を差し出した。「あげようか?」


   2


 ファミレスで相席になったやつに卵をもらった。

 見えない卵だ。


 丸く合わせた両手に口元を寄せて、ぶつぶつ言ってるから、私はついそいつに声をかけてしまったのだ。何してんの? って。

 そしたら怨念がどうの卵がどうのって語り出した。あ、やば。なんで声かけちゃったかなあって後悔したけれど、話の腰を折ってもっとやばくなるといけないから、そいつの言うことを熱心に聞いてやった。

 怨念たまごやばい。

 十四歳のころから育てているらしい。長っ。

 中二病、やばい。

 でも、断れなくてたまごをもらってしまった。


 はい、と透明な卵がのっているらしい右手を、私に差し出したときのやつの目は真剣だった。


     🥚


 怨念たまごを私はいつも持ち歩いてる。


 今のところ、使おうと思ったことはない。

 嫌なことがあっても、たまごを使うほどのことではない。

 それに、私がたまごを使わなければあいつも使わないんじゃないかって、勝手に思ってる。あいつの新しい卵が十分に育っても。



 うーん。

 これが、私のたまごの使い道~♪ってことになるのかな?



         終わり

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怨念たまご ヤマメさくら @magutan

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