笑えないロボット
@AIokita
笑えないロボット
トムの国では機械が作られていてロボットがたくさんいます。洗濯や掃除を手伝ったり、荷物を運んだり、草刈りなんかをしてくれます。
でもロボットたちは作業をするのは得意でも、おしゃべりは苦手です。人間が何かを話しかけても「コンニチハ」や「ワカリマシタ」といった簡単なことしか答えてくれません。
なのでロボットたちは人間たちからよく「あいつらは会話ができない」「同じことしか言えない」と小ばかにされ笑われていました。
でもトムはそんなロボットたちのことを変だと思えませんでした。トムも話すのが苦手なので、よく友たちから「話すのが下手だ」「話が通じない」と言われていました。だからトムはロボットと話していても変な気はしませんでした。
トムはロボットと話すときはとても気が楽でした。ロボットは決まったことしか言わないのでトムがなにを言っても気にしないからです。友たちや親や先生のようにトムの言うことを気にしたり怒ったりもしませんでした。
トムは大きくなると一層無口になっていました。人と話すのが苦手になっていたのです。誰かに何かを言うと怒らせたり、悲しませたりばかりになってしまうのです。トムはそれがつらいのでだんだんと人と話さなくなっていきました。トムの話し相手はいつもロボットです。ロボットはトムの話なんかわかっていません。「コンニチハ」「ワカリマシタ」と返すだけです。でも怒らないのでトムはロボットが嫌いではありませんでした。
トムがロボットに話をしていると小さな子どもが声をかけてきました。「どうしてロボットとお話しするの。人と話したほうが色んなことをしゃべれるのに」と聞いてきました。トムは「でも僕にはみんなが同じことを言っているだけにしか見えないんだ」と言いました。トムは続けました「みんなは安心とか怖くないってことをわかり合いたいんだ。だから自分の言ったことと違うことを返されるのが嫌なんだと思う」。話を聞いていた子どもはなんだかよくわからないことを言われたので気にせず行ってしまいました。
トムは大人になって働くようになりました。その頃、トムの国は前よりも貧しくなっているようでした。周りの国がもっとよい機械をたくさん作りだして、トムの国は豊かではなくなっていたのです。
トムがそのことを仕事の仲間に話すと、その人は怒って「俺たちが頑張っているのにお前は文句をつけるのか!」と言ってトムを突き飛ばしました。トムはうっかり人と話したことをまた後悔しました。やっぱり話さなければよかったと思ってまた黙ってしまいました。
黙っていると相手は勝手にトムが思っていることを決めてくれるので楽でした。「間違っているから言い返せないんだ」とか「あなたもそう思っているのね」とみんな自分の思っているように言いました。
その頃、トムはロボット以外にも話し相手を見つけました。近所のおじいさんです。
でもおじいさんは歳を取ったのでただぼんやりとベッドに寝ているだけでした。トムはおじいさんの世話をしている間にロボットに話しかけるみたいにおじいさんに話しかけていました。トムには返事をしない話し相手のほうがよかったのです。
「まわりの国もよくなってきて、僕たちも今のままじゃいられない。でも、そのことを周りに話すとみんな嫌がるんだ」と独り言のつもりでトムが言ったとき、おじいさんが話しかけてきました。トムはびっくりしました。おじいさんは言いました。
「昔はみんな不安だった。今みたいに豊かじゃなくて、明日どうなるかもわからなかった。でも、だからこそみんなで不安をどうにかしようとがんばった。機械のおかげで暮らしはずっとよくなって不安なんてどこかへいってしまった。それがずっと続いて、みんなもう、不安のことは考えたくなくなったんだ。けれど、今はまただんだんと不安が近づいているのか……」
トムはおじいさんの話にうなずきました。それと、トムが見たままのことを言うとみんな怒ったり悲しんだりするのがよくわかりました。みんなが「同じ話」しかしないのは、「違う話」がこわいのだと思いました。
でもトムは「同じ話」ができません。トムはそれを言うと何だか嘘をついているような気がしてしまうのです。人を傷つけたくはないし、だからといって自分に嘘もつきたくない。そうしてただ黙るだけのことが増えたのです。
トムはおじいさんにそのことを話すと、おじいさんは「わしやロボットに話せばいい」と言って笑いました。トムも笑って少し気持ちが軽くなりました。
トムはおじいさんと話すうちに、「同じ話」をする人ばかりじゃないことがわかって嬉しくなりました。でもいまのところそれはおじいさんだけです。どうしたら「違う話」をできる人を見つけられるのかとトムは考えました。トムは作文を書くと町の広場に貼り付けました。「違う話」を作文にしたのです。
それを見た人は怒ったり悲しんだりする前に読むのをやめました。中には怒る人もいましたが、トムの名前は書かなかったので助かりました。
やがてトムのものとは別の「違う話」の作文が貼られました。トムはそれを読んでおじいさんと出会ったときのように嬉しくなりました。「違う話」のできる人が他にもいたことを喜びました。それが何度か続きましたが、町の広場に「違う話」を貼る人が増えたため、苦情が出るようになりました。
「読んだあと気分が悪くなる」「前みたいに役に立つ知らせだけにしてほしい」町の人たちは話し合い、広場に貼る紙の大きさや枚数を決めました。長い文章はだめになり、文章も決まった形で書くことになりました。
しばらくすると広場は前と同じように、誰も困らない言葉だけがきれいに並び、以前のように「同じ話」だけになりました。
トムはさみしくなった気持ちをがまんして、「違う話」ができる人がいたことをそっと胸にしまいました。おじいさんも「ざんねんだったけどひとりじゃなくてよかった」と言ってくれました。
その後もトムは一人で作文を書くようになりました。誰かに読まれなくても、自分の思ったことを書くようになりました。そうすると話し相手がいなくても、なんだか気持ちが落ち着くようになりました。
やがてトムの国は本当に貧しくなって「同じ話」ができなくなりました。これまでのように「同じ話」をしていても不安は無くなりません。今ではみんなが「違う話」をして不安と向き合うようになっていきました。おじいさんは病気で死ぬ前にトムに聞きました。
「みんなはまだロボットを笑っているのだろうか」
笑えないロボット @AIokita
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