本書は、かつて鉄道現場に立ち続けた作者・秋定弦司による、静かな祈りと記録の書です。
著者は六年間、列車見張員・工事管理者・運転取扱補助員として線路のそばに立ち、日々「今日も何事もなく終わりますように」と祈り続けてきました。
時速百三十キロで駆け抜ける列車の風圧、油と鉄の匂い、作業後に交わす缶コーヒーと笑い――それらはすべて「生きている」という報告であり、祈りの証でした。
時には軽口をたたき、またある時には声を荒げることもありましたが、それでも誰もが命を預かる責任のもとで、ただ黙々と線路を守り続けていました。
本書は、鉄道趣味や技術解説ではなく、「人が命を守り合う現場」の記録として綴られています。著者は触車事故を語ることを固く拒みますが、 それは沈黙による敬意であり、祈りの継続でもあります。
誰かを断罪するでも、賛美を求めるでもなく、ただ「明日も全員が無事でありますように」と願う――線路と祈りを結ぶ、現場文学の静かな前書きです。
しかしながら、あらかじめ申し上げます。その愛がときに熱を帯びすぎ、線路の内側に持ち込んだ者に対しては、私は激しい怒号を発します。
なにとぞ容赦ください。
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