エッグマンは征く、勇気と云う翼と共に

花恋亡

ケツを犠牲にする覚悟を持つ勇気

 とりあえず大学にいって、皆と同じようにとりあえず就職して、流れに身を任す内に仕事を覚えて、後輩も出来たり、辞める人は辞めてくし、やりたかった仕事かと言われればそうでもないのだが、じゃあ何がしたかったのかって言うと何もなかったのだと思う。今だからそう思うだとか、今だからそう気付いたとかではなくて、今でもそう思う、なんだろう。


 ワンルームのアパート暮らし。家賃は決して安い方ではないが立地を考えれば妥当だし、何より人付き合いが苦手な俺はその手の出費が少ないから別に家計が厳しい訳ではない。社会人六年目でそこそこの収入が有り、そこそこ自由に使えて、休日に共に遊びに出掛ける友達も恋人も居ないが、特段生活に困ってはいなかった。


 そんな俺が現在困っている。自分ではもはやどうして良いのか分からずに困り果て、社会人になってお互い忙しくなり段々と疎遠になってしまった大学時代の友人に助けを求めた。



「ピンポーン」



あっわざわざ悪いな。

鍵開いてるから入ってきてくれ。



「ガチャン」



「おじゃま〜。いやーまだここ住んでんのな。分かりやすくて助かるけど。しかし何よあの意味不明なメッセージは……うわっキモッ」



久しぶりの友人にキモッと投げ掛けたコイツは俺の大学時代の数少ない友人だ。俺は親友だと思っているが、向こうがどう思っているかはわからない。



メッセージの通りだよ。


「マジ……だったんだな……」


ああ。


「いや、でも、マジか……」


ああ、この通りさ。



俺は両手を広げて自分の置かれた状況を視覚的に伝えた。



「マジでお前、卵になってんじゃん。えっ何それマジどうなってんの。もうおじさんが卵の着ぐるみ着てるみたいにしか見えないんだけど、脱げたりしないの?」



そう、俺はある日目覚めたら卵になっていたのだ。まるんとした卵に両手両足が伸び、その他は顔だけが露出している。卵に取り込まれてしまった人間が居るのならばこんな風になるのだろう。いやもうここに実在するのだが。仮にこれを困らない人間がもしも、そう、もし居るのならば是非ともその精神性を説いて頂きたいものだ。



そんな簡単に解決したらお前に助けなど求めてないんだよ。


「それにアレだな、ムキッと出た生脚と生腕がキモさを加速させてるな。なんかどうせならゆるキャラくらい手足短かったらまだ良かったのにな。無駄に長いままなのがめちゃくちゃキモいわ」


そんなことは俺だって分かってるよ。 

キモいを連呼してくれるな、傷つくわ。


「ってかめっちゃ殻じゃん。めっちゃ硬いじゃん」


どうしたら良いか考えてくれ。


「いやもう普通に病院行けよ」


……だって病院怖くないか?

真実を知るの怖くないか?

どうするよ?

中身が黄身と白身だったら。

そんなんもう、詰んでんじゃん。


「知らねぇよ病院行けよ。でもあれか、サイズ的にレントゲンくらいしか撮れなさそうだな」


レントゲンで中身が黄身と白身だったら、実質俺の本体は腕と脚と顔と殻ってことになっちゃうじゃん。

そんなこと知ったら立ち直れないよ。


「いつ卵になったのよ?」


月曜に目が覚めたら卵になってた。


「今日は土曜だか卵生活六日目か」


いや卵生活て。

こんなに毎日卵食べて大丈夫かなぁ〜みたいな感じとは訳が違うから。

体の心配の重さが雲泥の差だから。


「てか会社はどうしてんの? 有給?」


いや会社は行ってるよ。


「お前、メンタルお化けじゃん。えっマジでこれで会社行ってんの?」


だって学生じゃないんだし社会人はそうそう簡単に休めんだろ。


「いや大分そうそうだよ。そうそう案件だよ」


でもなぁ納期がタイトだから一日が貴重なんだよ。


「周りは? 周りはどんなリアクションだった?」


急にテンション上げるなよ。

いやそれが全くのノーリアクションなんだよ。

全く触れてこないし、気にしてる素振りすらない。

もはやいつもと何一つ微塵も変わらん。

もしかして卵に見えてるのは俺だけで、他の人には普通なのかもしれないと思ってさ、でもお前のリアクションを見て確信したよ。

ああ、俺、やっぱり卵なんだって。


「マジか、こんなに卵たまごしいのにな。日本人が疲れ過ぎてるのか、誰もお前に興味がないかのどっちかだな」


たぶんその両方だな。

あれ、なんか、なんでだろう、涙が。


「風呂は? それじゃ風呂に浸かれないだろ?」


ああもっぱらシャワーで済ませてるよ。

だってほら湯船に浸かったら、茹で卵になりそうで怖いじゃん。


「トイレはぁ……いや、やっぱいい。怖いから答えないでくれ」


ああ。


「しかしあれだな、こんなとこに閉じこもってても何も思い浮かばんし散歩でもしながら考えるか」


えっ、これで外行くのか?

正気か?

外って危ないんだぞ?

もし何かあってヒビでも入ったら怖いだろ。


「会社行ってる奴が今更何言ってんだよ。それに人間陽の光浴びなきゃダメだ。どうしたってネガティブになるだろ? 暗い部屋で男二人うんうん言ってたって何も産まれん。卵だけにな」


全然うまくないよ。

雑にイジるなよ、傷つくだろ。


「なに? 傷ついてんの?」


いや全然。



そうして俺達は散歩に出掛ける。近くの河川敷を互いの近況なんかを話しながら歩いた。俺の白い殻に太陽光が反射して友人は眩しそうだった。もっと眩しくしてやろうといたずら心が湧いて、体勢を工夫しようと体の向きを変えようとした時、無邪気な子供達の一団が俺達の間を走り抜けていった。俺は驚いてしまい不安定だった足元も災いして転んでしまった。



「おいっ大丈夫か?」


し…………い…………。


「えっ? なんて?」


し……ぉ……み……。


「ん? だからなんて?」


しろみぃぃぃぃ!

白身ぃっっっっ!

ほら白身出ちゃってるよ白身!

うわぁ~んやだぁ白身ぃ。

やっぱり白身ぃ。


「いやいいからとりあえず立てよ。ほら。わぁ殻割れちゃってるな」


怖いぃぃぃ。

見てぇぇぇ。


「分かった。今見てやるから。少し落ち着け……ん? おん?」


えっ何なに怖い。

どうしたの、どうなってるの?


「あーそうだな、良いニュースと悪いニュースどっちから聞きたい?」


えっえっ?

じゃ、じゃあ悪いニュースから。


「あのな落ち着いて聞けよ、いま割れ目から中を覗いて分かったんだが、多分これ白身じゃないかもしれないぞ」


えっじゃあ何なの?


「これ、ローションかもしれん」


ローションって、あのローション?


「説明するわ。お前の中を覗いたらな、ちっさいおっさんが居るんだよ」


おっおっさん?


「ああ、全裸のな」


ぜん……ら?


「そのおっさんが何か桶みたいなのに透明の液体を入れてそこに蛇口からお湯を注いで……こう両手でチャッチャッチャッチャってグルグルしてから」


してから?


「自分にそれを掛けてエアマットの上に寝てヌルヌルと滑ってる」


……それは一人でやっても意味がないのでは?


「だからこの漏れ出てる透明のドゥルンドゥルンは多分あのローションだと思う」


えっそれが悪いニュースなら、良いニュースは?


「あのな、そのおっさん、ギンギンだ」


待てーい!

何が良いニュースなんだよ!

何も良くないよ!

何で人の中で一人ローションプレイしてギンギンなんだよ!


「あの歳であれだけギンギンなんて良いことだろう。まぁちょっと待ってろ、塞ぐもんでも買ってきてやるから」



そう言って友人は向こうに見えるコンビニへ行った。戻ってきた彼の手にはガムテープが握られている。



「びぃーービリッびぃーービリ」


「よしっこれで塞がった。上出来上出来」


おいあんまりポンポン叩くなよ。

おいやめろっておいやめっやめっ。



「びたーん」



バランスを崩した俺は再び転んでしまった。



「おいっ悪かった悪かった。大丈夫か?」


だ……やめ……言ったじゃん。

……から……ろって……じゃん。


「えっなんて? 分からんて」


だから……やめろって……言ったじゃん!


「えっごめんごめん」


……みぃ……。


「はっ? 何? なんて?」


きぃ……ぃ……。


「ごめん聞こえない。なんて?」


きみぃぃぃぃ!

黄ぃ身ぃぃぃ!

ほらっこれっ黄色のっ!

黄身ぃ!

出ちゃってる!

よっ!


「わぁ~マジすまん悪い悪い。また確認してやるからさ、ほら立てよ」


うううう〜怖いよ〜。

黄身ってあれでしょ?

体を構成する全要素でしょ?

それが出ちゃったら俺どうなるの〜。


「あー待って待って大丈夫かもしんない。今覗いたらな、俺もちゃんとは知らないから間違えてるかもだけど、これ多分プロポリスだと思うわ」


ちょっと何言ってるか分かりません。


「ここから覗くとな、蜂の着ぐるみを着たちっさいおっさん達が見えるんだけどな」


おっさん達?

増えたの?


「なんかそのおっさん達が、お尻の付け根くらいにぶら下げてる黄色い丸い玉を手に取っては、お互いに塗りたくり合ってるんだよ。だからこれは黄身じゃなくてプロポリスだと思うわ」


おっさんが、複数で、着ぐるみで、プロポリス?

何を言ってんだお前は?


「で、みんなギンギンだ」


それやめて!



友人はそこにガムテープを貼って塞いだ。



「もういっそ割れても良いように茹で卵になっちゃえば良いんじゃね?」


馬鹿にしてんのか?

お前黄身と白身が何度で固まるか知ってるか?

70度と80度だぞ?

お前、中心温度が80度の人間なんてもう人間じゃねぇだろ。


「いや実際人間かどうかはもう大分怪しいよ。まぁ良いじゃん、ものは試しにやってみようぜ。他に出来ることも見つからないし」


お前とんだサイコパスだな。


「褒めるなよ〜」


サイコパスを褒め言葉だと思ってる時点で拗らせが凄まじいな。


「でも良いこと聞いたわ、サウナって何度か知ってる?」


いや、行かないから分かんない。


「大体90度近辺なんだよ。よしっそうと決まればだっ」



そうして俺達はネットで近場のサウナ施設を検索して二人で向かった。入館してタオルを買い、友人の脱衣を眺めサウナ室へと向かった。途中のシャワーで体を流しながら考えていた。固茹で卵は一般的には十三分ほど茹でるそうだ。サウナ初心者の俺が十三分も中に入れるだろうか。休日の昼間ということとサウナブームもあってかサウナの中には結構な人数がいる。しかしここでも誰も俺を奇異な目で訝しがる素振りを微塵も見せない。改めて卵に見えてるのは俺と友人だけなのではないかという疑問が浮かんだが、俺自身がそうだし俺を避ける人もそうなのたが、ちゃんと卵のサイズ感で避けたり通ったりしている。やっぱり俺は卵なのだと実感する。



「いやぁあちぃ~な。舐めてたわ。結構キツイな」


ああ、せめて十分と思ってたがめちゃくちゃ長く感じるな。



友人は汗でぐっしょりだ。俺も露出した顔と手足からは滝のように汗が流れる。



「汗めっちゃ出るな。でも、お前の殻はカラカラだな。卵の殻だけに」



そろそろ一発ぶん殴っても良いような気がする。そんなことを思っているとオートロウリュウでサウナストーンに水が噴霧される。むわあっと熱い蒸気の熱波が襲ってくる。熱さにお互い顔をしかめていた時だった。



「ピシッピシッビキッ」



殻にヒビが入る音がした。



おん……ん……ぁご。


「えっ何? なんて?」


おんせ……た……ご。


「ごめん、もうちょっと近くで喋って」


おんせんたまごっ。

温っ泉っ卵っ。

温の泉の卵ぉー。



マナー的に大きい声は出せない。だがこれを伝えずにはいられなかった。ヒビからは透明と白が混ざった半熟状態の白身が漏れ出ている。



「まだドゥルンドゥルンだな。やっぱサウナじゃダメなんかなぁ」


ちょっと確認してみてくれ。


「あー待っ、ん? おん? あーはいはい、なーる。ああそうか、ほーん」


えっ何どうした?


「お前、スノードームって知ってる?」


知ってるよ。

透明の球体に液体が満たされてて、逆さにすると雪に見立てた白いやつが舞うように見えるあれだろ。


「これな、それかもしれない」


ちょっとピンと来ないんだけど。


「まぁまずちっさいおっさんが居るだろ」


おっさんがマストなの何なの?

俺の体はおっさんに寄生されてるの?

もう、やだぁ、怖いよ。


「そのおっさんが雪だるまの着ぐるみ着ててな、白いふわふわの中を漂ってるわ。めっちゃ優雅にふわ~って。ああ、でもそろそろ地面に着きそうだな。お前ちょっと手のひら貸して」


まず地面の概念が何なんだよ。

まぁ良いけど、はい。



俺の手のひらを掴んだ友人は親指でキュッキュッと押した。



「あー懐かしっ昔実家にこういうおもちゃあったわ」


何?

どゆこと?


「ああ悪い悪い。お前の手のひらを押すとな、中の液体が対流しておっさんがまたふわーっふわーってすんの」


そーゆー仕組みで輪を引っ掛けるおもちゃあったけどもっ!

俺の手を押すと液体が押し出されんの?

いやまぁ考えるとそれはそうな気がするな。


「んでな、おっさんギンギンだわ」


もう着ぐるみの構造が気になるわ。

どういう了見でそこが露出する構造になってんだよ。


「さらにな、お前の手のひら押しておっさんふわふわさせるだろ、すると心なしかおっさんのギンギンの周りに白いやつが増えてる気がするわ」


それは心から聞きたくなかった。



俺達は涼む為に外のサウナチェアに座った。



「なんか、結局なんなんだろうな、お前のそれ。なんかきっかけとか思いつかないの?」


ああー、なんとなくなら分かるかな。


「えっ何よ?」


月曜に目が覚めて卵になった前日な、まぁ日曜なんだけどさ、明日も会社かぁなんて憂鬱な気分だったんだよ。

まぁそれは誰しもそうだろうし、俺だっていつものことなんだけどさ。

まぁそれでスマホで音楽流してテンション上げるじゃないけど気分を変えようと思ったわけ。

そうしたらなんでかプレイリストを離れて自動再生が始まってさ、知らない曲が流れ出したんだ。


「うん、それで?」


その歌の歌詞にさこうあったの。

「やらねぇくせに羨ましがってんじゃねぇよ」

って。


「うん」


俺さ思ったんだよ。

そんなこと分かってる。

分かってんだよ。

社会に出てさ、自分に出来ること出来ないことに気づいて、上手くやれる奴は努力も上手でその努力に見合った結果を残すし、自分がしっかりある奴はフットワークが軽くて俺みたいに同じ場所でいつまでも二の足踏んだりなんてしない。

自分が今居る場所は、行動力とか思い切りとか、そんな「やる」か「やらない」の選択をしてきた結果だって。

そんなバイタリティの違いだけだって。

そりゃ「出来ないこと」と「やらないこと」が違うんだってのは分かってる。

でも勇気が持てないのはまた別の話しじゃないか。

別にネガティブに羨ましがってんじゃないんだよ。

良いな、こうあれたら良いな、ああなれたら良いなって願望からくる「羨ましい」なんだよ。

そんな夢にも似た期待を込めた「羨ましい」さえ否定しないでくれよって。


「うん」


なんかそれで落ち込んじゃってさ。

部屋の隅で膝を抱えていじけてたら寝落ちしちゃって、起きたらこうなってた。


「そっか」


うん。


「じゃあさ、やりたいことすれば良いんじゃね?」


ん?


「いやさ、そのやらないことの数ってさ、これからやれることの数ってことじゃん。その結果は置いといたってさ、やれることで溢れてるなんてめっちゃ素敵なことじゃね? 正直、真っ白と言うには俺達は歳を取り過ぎたけどさ、別に黒でもグレーでも大丈夫だと思うんだよね。俺昔っから思うんだけどさ、色を足すのが乾く前の状態に混ぜることばっかりなのか疑問だったんだよ。黒には何混ぜても黒だみたいなさ。でも乾いた黒の上なら何色だって重ねられるんだよ。黒の上に映えるんだよ。だったら今からでもいくらでも塗り重ねりゃ良いじゃんって。まぁ、それに今のお前は真っ白だしな。卵だけに」


そうか、やれることで、溢れてんだな、俺は。


「そうそう今産まれたと思えばこれからスタートじゃん。卵なんだしさ」


卵を強調すると良いこと言ってる味が薄れるな。


「あれ? ダメだったか。まぁでもそんな感じ」


なぁ。


「ん?」


俺、やってこなかったことやろうと思うよ。

今から、これから、直ぐ。

お前も付き合ってくれよ。


「おう、当たり前だ。友達舐めんな」



それから俺達は残された休日をめいいっぱい使って色んなことをした。蒙古タンメン仲本の南極にチャレンジしたり、REEの30倍を食べた。流れでポヤングやきそばの獄激辛やきそばFinalにも挑んだ。カレーハウスGoGo壱番屋の20倍も食べに行ったし、幸幸魚の辛め幸幸魚も完食した。垢からの10番も食べたし、磯山商事の拾八禁カレー超痛辛も泣きながら食べた。まだまだチャレンジしたいことが沢山ある。時間はいくらあっても足りないと感じた。俺達は休日最後を飾るべく楊國福の麻辣湯を食べに向かってる最中だった。



「ピシッピシッピシピシピシピシピシピシ」



一つ一つ何かをやり終える度に少しずつ卵の殻に亀裂が入る感覚はあった。それが今この場で一気に進む。



「おいっ! やったじゃないか! 殻が全部割れて剥がれ落ちたぞ! 大丈夫、中身も人間だ」


おっおう、本当だ、俺、ちゃんと人間のままだ。

あーダメだ、涙が出そうだ。


「いやー良かった良かった。本当によかったよ。俺もケツを犠牲にした甲斐があったわ。もう後はその頭の上に残って乗っかってる殻を取れば本当に最後だな。でもなんかこんなキャラクターいなかったっけ? ほらあの、のっぽさんだったっけ?」


あーなんか俺が思ってたのと全然違う。

可愛いキャラクターの方を想像してたわ。


「キャラクターの方? ああ、ごん太くんか」


それだと卵の殻要素がゼロになるから。

むしろ世代じゃないのになんで詳しいんだよ。

どっちかと言えばWAKUWAKUさんと誤ロリだろ。


「いや、それは知らんわ」


なんでだよ。


「まぁ良いから良いから、その頭の殻も早く取っちゃえよ」


おう、そうだな。



俺はゆっくりアタマの上の殻を掴むと、ポッと上に持ち上げた。



「……ああ……その……なんだ……非常に……まぁ……言いにくいっちゃ言いにくいんだけど……」


なんだよ、言えよ。


「んー、あのな、頭の上に、ひよこの着ぐるみを着たちっさいおっさんが乗ってる」


なんでだよ!



そう俺がツッコミを入れた次の瞬間、背後から誰かの声がした。



「あー、ねぇねぇそこの君達ちょっと良いかな?」



翌日、公然わいせつ罪で留置所で目が覚めた俺は……






……卵になっていた。



なんでだよっ!



「ぴよぴー」


俺の頭の上でひよこのおっさんが元気に鳴いていた。




おわり。

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