【悪役魔法少女の相棒妖精】に転生した俺、原作知識で闇堕ちを回避させます。

琴珠

第1話

 目を覚ますと、俺は見知らぬ部屋にいた。


 そしてそれだけではない。

 俺の姿は大きく縮んでいた。


 というよりも、今の俺は人間ではなくなっていた。


 肩になんなく乗せられるようなサイズの、ドラゴンとなっていたのだ。


 そして自分自身の姿を見た時、ここは自分がいた世界ではないことに気がついた。


 確かに日本ではあるのだが、これは魔法少女ゲーム【マジカル☆クエスト】の世界の日本である。


 おそらくこれは俺の夢だろうが、この世界を楽しむためにマジカル☆クエスト、略してマジクエのストーリーを軽くおさらいしておこう。


 マジクエのジャンルはアクションRPG&ノベルゲームだ。

 モンスターとの戦闘はアクションRPG、それ以外はノベルゲームのような画面で時に選択肢を選んで物語を進行していく。


 肝心のストーリーについてはシンプルだ。

 ある日突然、心優しい女子中学生の元にとらのぬいぐるみのような妖精が現れる。


 その妖精はマジカルランドといった、いわゆる魔法の国からやって来た妖精だ。

 その妖精によって変身能力を託された主人公は、凄まじい魔法の才能からどんどん強くなっていく。


 そんな王道魔法少女なのだが、今風な点もある。

 それはライバルキャラが、いわゆる破滅キャラであるという点だ。


 その破滅キャラ【佐藤ムニ】は魔法の才能がないことから、一切の魔法を使うことができない。

 中盤で判明するのだが、そもそも魔力が全くなく、オブラートに包まずに言うと魔法少女としては落ちこぼれもいい所であった。


 ムニは才能あふれる主人公と自分を比較してしまい、彼女に対して様々な嫌がらせを行う。

 最終的には魔法少女に変身できなくなり悲惨な死を遂げるのだ。


 そしてそのムニの相棒である妖精が、今俺がなっているドラゴン型の妖精という訳だ。


「ムニに関しては、賛否両論あるけど、俺は好きなキャラだな」


 勿論、主人公にした行為は良いものではないが、魔法の才能が全くないというのもかわいそうなものだ。


 学業も仕事も上手く行かず、なんとかして追いつこうとしても上手くいかずに迷惑をかけてしまう俺にとって、同情の余地のあるキャラである。


 折角の夢の世界だ。

 できることなら、俺が目覚めるまで、原作知識を使って破滅フラグを回避してあげよう。


 そう考えた俺は、部屋でひっそりと彼女を待つことにした。


「いい湯だったわ」


 ムニがパジャマ姿で、部屋に戻って来た。

 黒髪セミロングヘアは、現在はタオルに包まれている。


「ムニ、今は何月何日だ?」

「急にどうしたの? 今は7月14日だけど、それが何か?」

「ありがとう。いや、ちょっとこっちの事情があってね……」


 7月14日というと、主人公が魔法少女になる5日前か。


 いや、そんなことよりも14日ってことは明日は重要なイベントがあるじゃないか!


「これはもしかして、チャンスかも!」

「え? なにか言った?」

「ああ! 今日寝る前まで、ちょっと話に付き合ってくれないか?」

「ちょっと厳しいかな。今日も魔法の練習しなくちゃいけないから。私はまだ魔法が使えないけど、いずれは最強の魔法少女になるんだからね! 努力は欠かせないわ!」


 本編では努力をしている描写はなかったが、しっかりと毎日頑張っていたというのか。

 だが悲しいことに、いくら魔法を練習しても魔力がないので使えるようにはならない。


「今日は休んでもいいんじゃないか? そんなことより、明日重大なことが起きる。聞いてくれないか?」


 俺は髪の毛を乾かしたムニに、明日起こることを話した。



 翌日の夜。

 魔法少女姿に変身したムニキスと俺は、街に繰り出した。


 魔法少女に変身すれば、周りから姿を認識されることもない。

 妖精である俺も同じく、普通の人間には認識することができないようになっている。


 そして俺達が街にやって来た理由、それはこの辺りでS級モンスターである【バハムート】が現れるからだ。


 バハムートは黒く巨大なドラゴンで、非常に強力なモンスターだ。

 そしてバハムートはマジカルランドでも恐れられているモンスターで、多くの魔法少女は他の誰かがどうにかしてくれるだろうと考え、ほとんどの魔法少女は戦おうとしない。


 だからこそ、今ここでバハムートに挑むことは魔法少女としてかなり度胸のある行為だと言えるだろう。


 そんなことを考えていると、バハムートが現れた。

 ちなみにモンスターが人間界に出現すると、魔法少女に関係する者以外の時間は止まる。


 そしてモンスターは人間界の物体などに関与することはできない為、その辺りの心配は無用である。

 勿論、制限時間はある。


 制限時間を超えてしまうと、その制限もなくなり人間界を破壊しつくすだろう。


「本当に出た!?」

「生バハムート、凄い迫力だ……。ってそんなことよりも、昨日言った作戦は覚えている?」

「当然よ! あいつの左脚周辺にいれば、攻撃は当たらないのよね?」

「その通り!」


 実はこの戦闘、後々助けに来る一流魔法少女を操作して、戦闘のチュートリアルをすることになるのだが、バハムートの左脚周辺にいれば攻撃が全く当たらないのだ。

 足で蹴りつけてくることもあるが、それは右脚だけであり、左脚はバハムートが動く時に踏みつぶされないように注意すれば良いだけである。


「でも私、魔法使えないのあんたも知ってるでしょ?」

「ただ助けが来るまで、耐えればいいんだ。今回の“真の狙い”も話したよね?」

「ええ、それは分かっているけど、本当に上手くいくのかしら?」


 ムニはホームセンターで購入したナイフを握りしめ、不安そうな表情を浮かべた。


「ああ! 俺を信じろ!」

「あんたそんなキャラだったかしら?」


 そして戦闘が始まった。

 俺とムニはバハムートの左脚に行き、彼女はとにかくバハムートの左脚をナイフで刺しまくる。


 当然ダメージはないが、それでいい。

 今回の狙いは別な所にあるのだから。


「本当に攻撃してこないわね!」

「だから言ったろ? そろそろ助けが来る! とにかく攻撃をし続けるんだ!」


 攻撃を続けること、約10分程経過した所で全身を氷のような装備で身を包んだ魔法少女がどこからともなくやって来た。

 彼女は一流の魔法少女であり、原作では彼女を操作してバハムートと戦うのだ。


「ありがとう! ここから私がやるわ!」


 その魔法少女はバハムートを強力な冷気を放つ魔法で凍らせ、強力なビームを放つと、バハムートは消滅するのであった。



 自室に戻ると、変身を解除したムニはベッドにゴロンと転がる。


「死ぬかと思ったわ!」

「お疲れ様」


 俺も同じく、ベッドにゴロンと転がる。


「で、本当に上手くいくんでしょうね?」

「分からないけど……でも、これでマジカルランドはいい意味で君に目を付けたと思う!」


 今回の俺達の真の狙いはバハムートの討伐ではなく、誰も挑もうとしないS級モンスターに対して食らいついた魔法少女だということを、マジカルランドに認識して貰うことであった。

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