第4話 入院患者の正体

 『彼』が高さのある大型の#台車__ストレッチャー__#に乗せられてフィオナ・コアー保安部長の先導により、保安部員4名の手で機関室に搬入された時…アーレン・ダール医療部長は既に自分専用のヴァイザーを頭に装着していた。


「…ああ、ありがとう…コアー保安部長。そこでロックを掛けて下さい…」


「…了解…フィオナで好いですよ、ドクター・アーレン…」


 頷いたフィオナが4人に指示して#台車__ストレッチャー__#を指定された場所で停止させ、タイヤにロックを掛けさせた。


「…コンピューター…抑制フォース・フィールドで対象をカバー…フルパワー、レベル9…」


【コンプリート】


「…ドクター…そのヴァイザーは? 」


 フィオナが見遣って訊いた。


「…ああ…これは、機関部長の協力も得て構築・構成した…医療施術活動専用のヴァイザーなんだ…しかし今は、本艦のメイン・コンピューターにある…総てのデータベースにアクセス出来るようにもなっている…『彼』への診断と治療が少しでも効果的・効率的に行えるようにね…」


 その時、私とカウンセラーが機関室に入った…2人ともドクターが被っているヴァイザーを少し物珍し気に観遣ったが、口に出して訊いたのはこれだけだった。


「…それで、『彼』と会話を? 」


「…ええ、デュオトロニック・トランスレーション・マトリクスもダウンロードしましたので…スムーズに意思疎通できると思います…」


「…機関室より観測室へ…改めて『彼』についての詳細を頼む…」


「…シエナです…人間のニューロンとシナプスのネットワークをかなり精密に模倣した、生体神経マトリクスです…強大なエネルギー・マトリクスを利用した推進機関に、レベルの高いセンサー・システムも内蔵されています…」


「…どんなカテゴリーに入るシステムなんだろう? 」


「…幾つか考えられますね…探査機か…自航走調査機か…中継コミュニケーション・アレイか…ある種の警告ブイなのか…」


 リーア・ミスタンテが分析室から応えた。


「…信号の発信源であったポイントを中心に、第5戦闘距離の50倍を半径とした宙域内で、同種のテクノロジーでの構造体とか…構成素材の断片などが無いかどうか探査しましたが、発見できませんでした…」


 パティ・シャノン観測室長だ。


「…探査範囲をもっと広げて、この宙域を含む恒星系の近隣惑星も調べましょう…」


 と、シエナ副長。


「…了解…先ず1番近いのが、この恒星系の第5惑星…ラージクラスです……! 北半球の2ヶ所であのミサイルを構成している素材断片の反応があります…」

 

「…パティ、こっちにも映してくれ…」


「…了解…こちらです…観えますか? 」


「…観えるよ…衝突クレーターだな? 」


「…はい…2ヶ所とも半径で200kmに及んでいます…外側から中心に向けての傾斜度・傾斜率で観ても、これは明らかに…」


「…強大な破壊力による局所爆発クレーターだな…」


「…はい…しかも内部は物凄く高い濃度の放射能で、汚染されています…」


「…正体が判明したようですね…」


 フィオナ・コアーが私の顔を観ながら言う。


「…ああ…思考能力を備えられた自律A I が搭載されていて…自分の意思で何処にでも行ける…桁外れの大量破壊兵器だ…」


「…アドル艦長、どうしますか? 」


 シエナが訊く。


「…メイン・スタッフは全員…ドクターも含めて私の控室に集合…ヴァイザーは外して来て下さい…対応を協議します…」

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