第19話 勘違い

 そのまま、グラウンドの端に連れてこられた私は、彼に言った。

 「離して!

  こんな事したら勘違いされる!」

 傷ついたような、睨むような顔をする副部長に、胸がズキッとする。

 「何のことだ?」

 私は叫んだ。

 こんな事、言いたくない。

 すいのんにも、副部長にも、嫌われたくない。

 でも、それ以上に、今の関係は嫌。

 このまま、中学生活を終える?

 そんなの絶対、嫌。

 私は、もう………一人じゃない。

 「だって、あの日、隣の部室で西園寺さんと何か 

  やってたじゃないですか!

  だから、付き合ってるんですよね?

  でも、誰が来るかも分からないところであんな 

  ことをしたら………」

 途中で、副部長がストップをかけた。

 「待て!  

  西園寺 翠乃は、俺の妹だ!

  あの日は、あいつに、勉強を教えてたんだ!」

 ………へ?

 『やだぁ、こんなのぉ』『別にいいだろ』

 確かに、そんな言葉を発するのは、問題を解く時か、恋愛系の時か、何かにチャレンジする時くらいだ。

 でっ、でも!

 「名字が違うのは!?」

 「うちは、両親が離婚してるんだ。

  翠乃は、おふくろに引き取られて、俺は父ちゃ

  んに引き取られたんだ。」

 「隣の部室で教えてたのは!?」

 「陸上部の隣の部室は、チアガール部だ。

  翠乃がチアガール部に入ってること、お前なら

  知ってるはずだ。」

 へなへな〜と、その場にしゃがみ込む。

 全部、全部、私の勘違い………。

 恥ずかしい…、顔から火が出そうっ!

 「ご、ごめんなさい。

  私ったら恥ずかしい」

 「いや………お前に誤解を招くのは嫌だったから

  な。」

 そ、それって………す………!

 そんなわけないよね、ダメダメ。

 さっき早とちりはダメって分かったでしょ!

 「じゃ、じゃあそろそろ寮へ戻らないと、ルーム

  メイトが心配するので……!」 

 私は恥ずかしさ同士が相まって、この場にいるのは難しいので、帰ることにした。

 「ああ、

  そうだな。」

 「じゃあ………さよなら。」

 彼と笑顔に見合う笑顔を作り、表情に出す。

 「またな、幸知。」

 え、ええええええええええっ!

 な、名前………。

 もう、ダメ………。

 拝啓、読者の皆さん、私は一足先に天国へゆきます…………。ごめんなさい………。

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