元カノにLINEをした。

やさい

元カノにLINEをした。

歳を追うごとに自覚してきた。

俺は自己中心的で、エゴイストで、自分に対して様々な言い訳を駆使して、自分のやりたいようにする人間で、そんな本質を隠して他人にはいい顔をしている。


30歳になることは怖くはない。

26歳から27歳になる時の方がよっぽど怖くて、焦燥感があった。もう若者ではないし、会社でも若手ではなくなる年齢が27歳だと考えていた。

30歳になっても29歳と何も変わらず、無為な日々がただただ続いていくだけだと思っていた。


元カノにLINEをした。久しぶり、元気?もう船橋から脱出した?可能な限りの軽さを演出して送った。実際にはLINEの画面を開いて30分は悩んでいたし、最初の文を5回は書き直したし、書いてから送信ボタンを押すのにもう30分かかった。

LINEをさせたのは、飲み会で惚気話を聞いたからなのか、直近読んだ漫画が王道ラブコメだったからか、単純に酒が回っていたからなのか。


どれも違う。


30歳になることは怖くはない。ただ、焦ってはいる。

30という数字を見たときに、俺の中で何かの「終わり」を感じたのは事実だ。それが何の「終わり」なのかはよくわかっていない。

いや、それも嘘だ。本当は薄々勘付いている。

多分俺は「青春」の終わりを感じている。俺の「青春」は10代から、もしかしたらその前から続く、自己中心的でエゴイストなメンタリティであり、それのおかげで得したことも、それのせいで損したことも、その出来事が青春なのではなく、その時々に巣食う俺のメンタリティそれ自体が「青春」なのだ。

そして、その「青春」は、29歳で手放さなくてはいけない。それこそが「終わり」で、「終わらせ」なくてはいけないと思う。


詰まるところ、俺のクソみたいなメンタリティで好き放題やってきた今までの29年間を精算する必要があると感じている。ある意味それは、まだ青春の中にいる俺が決めた通過儀礼であり、儀式であり、祈りだ。

過去を精算しないと俺はこの先真っ当な人生を送れないことは、なぜか強い確信を持っている。その精算と1つとして、元カノにLINEをした。


ふと夢に元カノが出てくることがある。今までの人生で一番好きだった人だから、仕方あるまい。

夢の中の彼女は笑っていたり怒っていたり泣いていたりするが、共通しているのは俺を見ていることで、俺はその夢から目覚めたとき強い後悔を感じることだ。

元カノは俺の夢を見ることはあるんだろうか。


元カノからLINEは返ってこなかった。精算終了。

まだギリギリ青春の中にいる俺はほんのちょっと傷ついたが、これは今までのツケだから受け入れるしかない。

誕生日までの残り半年で、何かを精算する度に俺はちょっとずつ傷つくんだろう。

ただそれらが全て精算し終わった時、俺は大人になれる確信がある。

全てを精算しきった暁には、髭でも伸ばそうかな。

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