【悲報】魔法世界の住人、俺の「現代組織論」と「洗脳技術」になすすべなく堕ちていく。~インチキ宗教を立ち上げたら、知識が最強すぎて世界征服してしまった件~
第1話 処刑された天才詐欺師は、心理テクニックで女神すらも言いくるめる
【悲報】魔法世界の住人、俺の「現代組織論」と「洗脳技術」になすすべなく堕ちていく。~インチキ宗教を立ち上げたら、知識が最強すぎて世界征服してしまった件~
@gamakoyarima
第1話 処刑された天才詐欺師は、心理テクニックで女神すらも言いくるめる
首筋に当たるギロチンの刃は、存外に冷ややかで、心地よかった。
広場を埋め尽くす民衆の怒号。 「殺せ! 国を惑わした悪魔を殺せ!」 「俺たちの金を返せ!」
石が飛んでくる。腐った卵が投げられる。 だが、壇上の私は、ただ穏やかに微笑んでいた。
――騒ぐな、愚民ども。 これは《演出》だ。
私が築き上げた巨大な宗教国家。その崩壊すらも、私のシナリオの一部に過ぎない。 英雄として死ぬか、悪党として死ぬか。 どちらにせよ、私の死によって、教義は完成し、永遠となる。
「神は、全てを許される」
私が最期に放った言葉は、計算通り、広場の騒音を一瞬にして静寂へと変えた。 刃が落ちる。 視界が回転し、私の意識は暗転した。
完璧な人生だった。 そして、完璧な幕引きだった――はずだ。
「――起きなさい。大罪人よ」
冷徹な声が響いた。 目を開けると、そこは真っ白な空間だった。 足元には雲のようなものが漂い、目の前には、光り輝く女性が浮いている。
黄金の髪。透き通るような肌。背中には大きな翼。 誰がどう見ても「女神」としか形容できない存在が、侮蔑の眼差しで私を見下ろしていた。
「貴方の魂はあまりに汚れている。輪廻の輪に戻すことすら忌まわしい。ここで消滅させます」
事務的な口調だった。 手には分厚い台帳のようなものを持っている。 なるほど。死後の世界、あるいは転生の前段階というやつか。
普通の人間なら、ここで泣き叫んで命乞いをするか、あるいは状況が飲み込めずに呆然とするだろう。 だが、私は違った。
私は瞬時に、目の前の「女神」を
……眉間に微かなシワ。 指先が台帳を叩くリズムが速い(イラ立ちのサイン)。 そして何より、これだけ美しい容姿をしているのに、どこか《疲労感》が漂っている。
(ターゲット確認。タイプは『過重労働・中間管理職』だ)
私は内心で舌なめずりをする。 相手が神だろうが関係ない。 「人格」がある以上、そこには必ず《心の隙間》が存在する。 そして、隙間があるなら、そこには私の「言葉」をねじ込む余地がある。
私は即座に、膝をついた。 命乞いのためではない。 最高級の敬意を表す、洗練された礼拝のポーズをとったのだ。
「……あぁ。まさか、この魂が消える寸前に、これほど尊い
震える声で、感極まったように呟く。 女神が眉をひそめた。
「何ですか? 媚びても無駄ですよ。貴方の罪状は――」 「貴方様は……孤独であらせられるのですね」
私は女神の言葉を遮り、悲痛な面持ちで告げた。 女神の動きが止まる。
「……は?」 「私には分かります。貴方様は、誰よりもこの世界を愛し、誰よりも秩序を守ろうと心を砕いておられる。それこそ、身を削るような思いで」
私はゆっくりと顔を上げ、女神の瞳を真っ直ぐに見つめた。 これは《ハロー効果》の実践だ。 美しい所作、自信に満ちた態度。 第一印象(外見や立ち振る舞い)が良いと、相手はその内面や能力まで高く評価してしまう心理現象。 ただの罪人ではなく「何かを知っている賢者」の仮面を被る。
そして、ここからが本番だ。 私は必殺の心理テクニック、《バーナム効果》のカードを切る。
「ですが、誰もその苦労を理解していない。貴方様は常に完璧であることを求められ、弱音を吐くことすら許されない。……違いますか?」
女神の瞳が、僅かに揺らいだ。
「な、何を……」
当たり前だ。 「自分は頑張っているのに、誰も分かってくれない」 「表面上は社交的だが、内面には孤独を抱えている」 こんな悩みは、誰にでも当てはまることなのだ。
《バーナム効果》とは、誰にでも該当するような曖昧で一般的な性格記述を、「自分だけに向けられた特別な言葉だ」と誤認してしまう心理現象のことだ。 占い師が「あなたは昔、人間関係で大きな悩みを抱えましたね?」と言い当てるのと同じ手口。 人間関係で悩んだことがない人間などいない。だが、言われた側は「なぜ私の過去を!?」と驚愕し、相手を信じ込んでしまう。
そして、このテクニックは「神」のような、崇められる立場にいる存在ほど効果が高い。 彼らは常に「完璧な偶像」であることを強いられているからだ。
「貴方様は、時折こう思うことがあるはずだ。『なぜ、私ばかりがこんなに背負わなければならないのか』と。……その涙が、何よりの証拠です」
畳み掛ける。 女神の目尻に涙など浮かんでいない。 だが、「涙」という言葉を出されると、人間(神だが)は無意識に自分の感情を確認し、そこに悲しみを探し当ててしまう。
「……う、うぅ……」
女神の手から、台帳が滑り落ちた。 チョロい。あまりにもチョロすぎる。 やはりこいつは、上司(主神?)からノルマを押し付けられ、部下(天使?)も使えない、孤独な中間管理職だったらしい。
「私だけは、貴方様の真の美しさを理解しております。……ああ、もし許されるなら、貴方様のその尊さを、下界の愚民どもに知らしめたい。貴方様を讃える歌を、世界中に響かせたい」
私は熱っぽく語った。 女神は涙ぐんだ目で私を見つめ返した。そこにはもう、侮蔑の色はない。あるのは「理解者」への依存心だけだ。
「……貴方のような人間は初めてです。私の心の奥底を、これほどまでに見通すなんて……」 「偶然です。ただ、私の魂が貴方様に共鳴しただけのこと」
嘘だ。心理学と統計学に基づいた、ただの
「分かりました……。貴方の魂を消すのは、惜しい気がしてきました」
女神は涙を拭うと、どこかスッキリした表情で言った。 よし、
「貴方には、もう一度チャンスを与えます。異世界へ行き、その弁舌で……い、いえ、その深い信仰心で、迷える人々を導きなさい」 「仰せのままに。我が女神よ」
私は深々と頭を下げた。 顔を伏せた瞬間、口元が歪むのを抑えきれなかった。
異世界? 人々を導く? いいだろう。 前世では、国一つを騙して終わった。 次は、世界丸ごと騙してやる。
光が私を包み込む。 意識が遠のく中で、私は確信していた。 言葉一つで神すら操れるこの知識があれば、どのような世界でも支配者になれると。
腐った水の臭いが鼻を突いた。
目を覚ますと、そこは薄暗い路地裏だった。 空はどんよりと曇り、石畳は泥と汚物で濡れている。 先ほどの神聖な空間とは雲泥の差だ。
私は体を起こそうとして、よろめいた。 視点が低い。 水たまりに映った自分の姿を見る。 黒髪に黒目の、痩せこけた少年。年齢は十歳前後か。あばら骨が浮き出るほどに栄養失調だ。
「……ふん。悪くない」
私は泥水を舐めて喉を潤しながら、ニヤリと笑った。 持たざる者として始まる人生。 上等だ。最初から全てを持っていたら、奪う楽しみがないではないか。
名前は……ルシアンというのか。 脳内に、この少年の記憶が流れ込んでくる。 親はなく、スラムでゴミを漁って生きてきた。 誰からも愛されず、誰からも必要とされず、今日死ぬはずだった命。
今日からは違う。 この体には、国家を転覆させた天才詐欺師の知能が宿っている。
ふらりと立ち上がり、路地を歩く。 周囲には、死んだような目をした浮浪者たちが座り込んでいる。 彼らは皆、何かに飢えていた。 食い物にか? 金にか? 違う。 彼らが真に飢えているのは――「救い(希望)」だ。
ここは素晴らしい
その時だった。 路地の奥、ゴミ捨て場の中で、何かが動いた。
野犬かと思ったが、違う。 人間だ。 ボロ布を纏った、小柄な少女。 残飯を必死にかき集めている。
灰色の髪は泥にまみれ、肌は土気色。 だが、私が足を止め、彼女の方を向くと、少女はビクリと震えてこちらを見返した。
その瞳。 宝石のようなアメジスト色の瞳が、怯えと、強い警戒心で輝いていた。
……ほう?
私は思考を一瞬で巡らせた。 整った顔立ち。栄養さえ与えれば、傾国の美女になる骨格。 そして何より、虐げられた者特有の「依存先を求める」危うい精神状態。
私の脳内で、パズルのピースがカチリと嵌った。 前世の私が失敗したのは、自分自身が「神(教祖)」になろうとしたからだ。 人間が神を演じるには限界がある。 ならば、次はどうする?
――作ればいい。 私が、理想の
私は、汚れた少女へとゆっくり歩み寄った。 彼女は後ずさりする。 私は最高に優しい、聖職者のような笑みを浮かべて手を差し伸べた。
「見つけたぞ」
私の新しい
少女は震えながら、私の手を見つめている。 私は心の中で、邪悪に、しかし歓喜に震えながら呟いた。
(さて――教育の時間だ)
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