クールな義姉が実は甘えん坊すぎて困るんだが!?

陽華

プロローグ

夜更け、熊本の街に静かな雨が降っていた。

 窓の外を打つ雨音と、遠くで轟く雷。そんな中で、白狼しろうは机に突っ伏していた。


 コン、コン――。


 控えめなノックの音に、彼は顔を上げる。


「……白狼、起きてる?」


 聞き慣れた声。けれど、ほんの少しだけ震えている。

 ドアを開けると、そこに立っていたのは義姉の月猫(るな)だった。

 昼間の彼女は、クールで人を寄せ付けないような雰囲気を纏っている。クラスでも美人で有名で、どこか近寄りがたい存在。

 ―だが、その彼女が今は、目尻を赤く染めて俯いていた。

「……二人きりのときくらいは、甘えてもいい?」


 小さな声。


 その一言に、白狼の心臓が強く跳ねた。

 月猫はそっと身を寄せ、白狼の肩に頭を預ける。

 濡れた猫のように震えていて、さっきまで張り詰めていた彼女の強がりはどこにもない。

「新しい環境、うまくやらなきゃって思うんだけど……怖いんだ」


 その声に込められた弱さに、白狼は言葉を失う。

 ――なぜ義姉が、こんなにも不安そうに自分へ寄りかかっているのか。

 数日前に、白狼は人生を変える出来事を迎えていた。

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