転生したら魔王だったから、5分で片付けた。
うえすぎ
第1話転生したら魔王だったから、5分で片付けた。
目を覚ましたら、玉座に座っていた。
「……は?」
周囲は黒曜石の広間。玉座の下には、ひれ伏す魔族たち。
誰かが震える声で言った。
「魔王様。完全復活、おめでとうございます」
状況は一秒で理解した。
俺は死んだ。たぶん事故か何かで。
そして――
(転生したら、魔王だったらしい)
面倒くさそうな世界だな、と思った瞬間、
遠くの空が不穏に歪む気配を感じた。
「……あ、仕事か」
俺は玉座を立ち、外套を羽織った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「――いたぞ! 魔王軍の残党だ!」
畑が踏み荒らされ、土が舞った。
角のある村人Aは、鍬を持ったまま立ち尽くす。
「……またか」
「勇者様御一行、今日で三回目だぞ」
隣で村人Bがため息をついた。背中の鱗が陽に光る。
「お前たち! ここは魔王軍の補給拠点だな!」
「違いますけど」
「嘘をつくな! 魔獣が畑をやってる時点で怪しい!」
勇者は剣を構え、後ろの兵たちが一斉に槍を向ける。
「俺たちはただ暮らしてるだけだ」
「魔王に仕えてるなら同罪だ!」
「仕えてない」
「魔獣は黙れ!」
その瞬間、Bの尻尾がぴくりと動いた。
「なあA」
「なんだ」
「昔の戦、終わったよな?」
「ああ。とっくに」
勇者は鼻で笑った。
「終わった? 魔王が生きている限り、戦争は終わらない!」
「……その理屈、まだ使ってるのか」
「正義は更新されないんだ!」
遠くで、別の家が燃えている。
逃げ遅れた魔獣の子どもが泣き叫ぶ。
「なあ」
Aが静かに言った。
「正義ってさ、畑も壊すのか?」
「黙れ! 魔獣に人の言葉を使う資格は――」
「そこまでだ」
空気が、変わった。
勇者の背後、丘の上。
黒い外套の男が立っている。
「誰だ!」
「名乗るほどでもない」
俺は砂時計をひっくり返した。
「勇者。確認する」
「何をだ!」
「お前は“今生きてる魔獣”と、“過去の魔王”を区別できてるか?」
「区別する必要があるのか?」
「ないと思ってるなら」
俺は一歩、前に出た。
「――お前は遅れてきた」
勇者が剣を振り下ろす。
「正義を語るな、魔王!!」
「語ってない」
ただ、地面を踏みしめた。
轟音。
衝撃波が戦場を薙ぎ払い、兵も剣も意志も吹き飛ぶ。
立っていられたのは、俺と魔獣たちだけだった。
勇者は地面に膝をつき、剣を落とす。
「……魔王、だと?」
「そうだ」
俺は見下ろす。
「戦争は終わった。
終わった戦を続けてるのは、お前だ」
「だが……正義が……」
「正義は便利だな。五分で人を殺せる」
「――来い」
俺がそう言った瞬間、勇者の表情が変わった。
「全軍! 魔王を討て!!」
「うおおおおお!!」
号令と同時に、矢が降った。
火矢、聖矢、魔力を帯びた退魔矢。
空が、矢で埋まる。
「当たれば終わりだぞ!」
「当たらない」
矢は、俺に触れる前に止まった。
空中で、まるで時間を忘れたみたいに静止する。
「なっ……!?」
「魔力障壁だ! 突破しろ!!」
次は突撃。
重装兵が盾を構え、聖剣を持つ騎士が左右から迫る。
「行け! 怯むな!!」
「魔王は一人だ!!」
「数の問題じゃない」
俺は歩いた。
ただ、前に。
――踏み出した地面が、砕けた。
衝撃が波となって広がり、盾ごと兵士が宙を舞う。
鎧が悲鳴を上げ、剣が折れ、体が地面を転がった。
「止まるな!!」
「勇者様!!」
勇者は歯を食いしばり、剣を掲げる。
「聖剣よ! 我に力を!!」
剣が光り、神聖魔法が溢れ出す。
勇者は跳んだ。
「正義の一撃だぁぁぁ!!」
「――遅い」
俺は、腕を振った。
剣と光が、まとめて消えた。
爆風。
勇者の体が地面に叩きつけられ、土煙が舞う。
「が……っ!!」
「勇者様!!」
俺は勇者の前に立つ。
「聞け。これは戦いじゃない」
「……なに……?」
「害獣駆除だ」
勇者が立ち上がろうとする。
「まだだ……! まだ……!」
「しつこいな」
俺は指を鳴らした。
地面が裂け、魔力の奔流が走る。
勇者軍の陣形が、一瞬で崩壊した。
逃げる者、倒れる者、剣を捨てる者。
「撤退!!」
「無理だ! 足が……!!」
俺は、最後に一歩だけ踏み込む。
――世界が、揺れた。
衝撃波が戦場を薙ぎ払い、
立っていた者は、誰もいなくなった。
静寂。
残っているのは、
畑と、倒れた勇者と、呆然と立つ魔獣たちだけ。
勇者は、剣のない手で地面を掴み、俺を見上げた。
「……なぜ、殺さない……」
「殺す理由がない」
俺は背を向ける。
「戦争は終わってる。
終わってないと思ってるのは、お前だけだ」
勇者は、それでも立ち上がった。
「まだだ……!
魔王がいる限り……正義は……!」
剣のない手で、なおも前に出ようとする。
「聞け」
俺は静かに言った。
「お前は正義のために戦ってるんじゃない」
「黙れ!!」
「――“終わった戦争”に居場所がないだけだ」
勇者の目が揺れる。
「俺たちは魔王軍を討った!
仲間も、国も、正義も――!」
「だから、続けるのか」
「そうだ!!」
即答だった。
俺は、もう一歩近づいた。
「なら、ここで終わらせる」
「聖剣がなくても――」
勇者が叫ぶ前に、
俺は手を伸ばした。
掴んだのは、首でも胸でもない。
存在そのものだ。
空気が、沈む。
「――っ……!?」
勇者の体が硬直し、言葉が途切れる。
「お前が守っているつもりの正義はな」
俺は、淡々と続ける。
「今、生きてる連中を何人殺した?」
答えは返らない。
「だから――」
握り潰した。
光も、意志も、
“勇者だったもの”は音もなく崩れ落ちた。
戦場は、完全に静かになった。
ーーーーーーーーーーーーー
しばらくして、
魔獣たちは畑に戻った。
「……終わったな」
「終わったな」
倒れた勇者のいた場所には、
何も残っていない。
「また来ると思うか?」
「来ないだろ」
「なんで?」
「来たら、また殺される」
それだけだった。
畑に鍬が入る。
焼けた土に、風が通る。
俺は丘の上で、砂時計を見る。
ちょうど、最後の砂が落ちた。
「五分で解決」
最強の魔王は、
終わっていない戦争を、一つ減らして去った。
転生したら魔王だったから、5分で片付けた。 うえすぎ @uesugi398
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