「統一エーテル場理論」第IV期 魔導物理学会 基礎理論部会 報告書より

@uekitoken

第IV期 魔導物理学会 基礎理論部会 報告書

1. 序論:世界構造の再定義

 本理論は、長らく「超自然」として扱われてきた魔術現象を、観測可能かつ計算可能な物理現象として再定義するものである。世界は単一の物理法則のみによって構成されているのではなく、少なくとも二つの重なり合う「場」によって構成されている。


1.1 二重場仮説

 宇宙空間は以下の二つの場の重ね合わせ(Superposition)によって成立している。


1.物質場(Material Field: M-Field)

原子、電子、重力子などが支配する従来の物理世界。

エントロピー増大の法則に従う。


2.エーテル場(Etheric Field: E-Field)

情報と純粋エネルギーの流体的な場。

時間や距離の概念が物質界とは異なり、意思や認識といった「情報密度」が質 量のように振る舞う。


 「魔術」とは、このE場におけるエネルギーの揺らぎを意図的に操作し、M場(現実世界)へ物理的影響として転写するプロセスと定義される。


2. 位相幾何学における「存在」の定義

 本理論において、あらゆる存在はE場とM場の相互作用によって分類される。


2.1 生命体:共鳴結節点(Resonant Node)

人間を含む生命体は、物質的な肉体(ハードウェア)と、エーテル場における情報集積(魂/意識)が重なり合い、相互にフィードバックループを形成している「結節点」である。


•構造: M場の肉体がアンテナとなり、E場の局所的なエネルギー流を固定している。

•死の定義: 肉体の崩壊によりアンテナ機能が失われ、E場の結節点がほどけてエネルギーが場に還元される現象(あるいは、強固な自我を持つ場合はゴーストとしてE場に残留する)。


2.2 神格・精霊:特異点(Singularity)

いわゆる「神」や「高位精霊」と呼ばれる存在は、物質的な肉体を持たず(あるいは必要とせず)、E場において極めて高密度な情報とエネルギーが凝縮された「巨大な結節点」ないし「特異点」である。


•性質: 巨大な質量が時空を歪めるように、彼らはエーテル場を歪曲させる。

•影響: その存在自体が巨大なエネルギー源であり、彼らが「動く(意思を発する)」だけで、M場に対し巨大な物理的干渉(奇跡)が発生する。これを制御・利用しようとする試みが「召喚術」や「神降ろし」である。


3. 魔術行使の工学的プロセス

 「詠唱」や「魔法陣」は、これまで儀式的な装飾と考えられてきたが、本理論ではE場からM場へのエネルギー変換効率(変換係数 ETA)を最大化するための「制御言語」および「回路」であると定義する。


3.1 詠唱:音響共鳴による初期化

 エーテル場は「観測者の意志」に反応する性質を持つが、生の思考はノイズが多く拡散しやすい。 詠唱は、特定の音階、リズム、言語体系を用いることで、M場の空気振動をトリガーとし、E場に特定の波形パターン(コマンド)を強制的に刻み込む行為である。

•数式としての詠唱:

 詠唱はコンパイル作業に相当し、曖昧なイメージを厳密な物理干渉式へと変換する。


3.2 魔法陣・曼荼羅・特定のシンボル:位相幾何学的回路(Topological Circuit)

 魔法陣や曼荼羅、ルーン文字・護符の図案等は、エーテル流を整流・増幅・収束させるための回路図である。

•円環(Circle): エネルギーの散逸を防ぐ閉鎖系(絶縁体)の役割。

•幾何学模様: 特定の物理現象(発火、凍結、加速)に対応するエーテルコード。

 複雑な曼荼羅は、神(特異点)の構造を二次元平面に投影・模倣したものであり、その特異点の性質(権能)の一部をローカル環境で再現する「エミュレーター」として機能する。


4. 相互作用とリスク


4.1 魔力(Mana)

「魔力」とは、個人の保有エネルギー量ではなく、E場からエネルギーを引き出す際の「スループット(処理帯域)」および「抵抗値への耐性」を指す。


4.2 魔術的代償(Backlash)

 E場のエネルギーをM場に無理やり定着させる際、物理法則の反発(復元力)が生じる。

•オーバーヒート: 術者の脳(E場との主要な接続端子)が、過剰な情報流に耐えきれず焼き切れる現象。

•浸食: E場の論理が肉体を書き換え、術者が人ならざるモノ(エレメントや怪物)へと変質してしまう現象。


5. 結論

 神を頂点とするこの巨大なシステムにおいて、我々人間は微小なノードに過ぎない。しかし、適切なコード(詠唱)と回路(魔法陣や曼荼羅、ルーン文字等)を用いることで、我々は特異点(神)の出力の一部を借り受け、物理世界を変革することが可能である。 今後の課題は、この変換効率の向上と、安全装置(セーフティ)の規格化にある。


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