第5話 つゆだくパンティ地獄からの脱出

「ちょっと待ったぁぁああああああっ!」


 校長室の扉を開き、ピンクの塊が飛び込んで来た。


「えっ!?」


 靡くピンク髪、真っ赤な瞳。

 

(違う⋯?)


 田舎に置いて来た年下幼馴染かと思ったが、共通点はピンク髪だけだった。

 目の前の少女は情熱の籠もった瞳を真っ赤に燃やし、ピンクの髪の毛も肩口辺りでバッサリ切っている。

 お兄ちゃんお兄ちゃんと自分に懐いて来ている年下の幼馴染の少女は、女の子らしいキャピキャピした服装や小物が大好きだ。

 自慢の長いピンク髪を、何度梳かしたり編み込んだりさせられたか解らない。


「こんな人が勇者だなんてっ!僕は認めないっ!」


 キッとレイヴンを睨み付けて来る少女に対してレイヴンはどう対応しようか困る。


(この聖剣、偽物なんだけどなぁ⋯)


 だがどうやらこの娘は聖剣や勇者に夢を見ているらしい。

 事実を伝えるのは可哀想だし、立場上伝えられない。


「あ」

「ああっ!?」


 突然の事に驚いて、うっかり聖剣を手放してしまうレイヴン。

 ガチャンッ!と音を立てて聖剣が転がる。


「僕の聖剣っ!」

「あ」

「プリムっ!止せっ!」


 レイヴンが拾う前にプリムと呼ばれた少女が聖剣を拾い上げ―――られなかった。


「ふんぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」


 プリムが床に落ちた聖剣を持ち上げようとしても、聖剣はピクリとも動かない。


「重い?そんな訳は⋯」

 

 羽の様に軽かった。

 何故ならレプリカだから。


(プリムの馬鹿力でも持ち上げられないじゃとっ!?どう云う事じゃ?)


 単純に重いだけなら床に陥没していただろう。

 そうはならない。

 何か仕掛けが有る筈だ。

 そして⋯


(やはり、この男、勇者なのか⋯)


 解ってはいたが改めて確信する。


「うぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」


 プリムはガニ股になってウンコ座りをし、形振り構わずに力を込めている。

 

「ちょっ!ちょっと見えてるよっ!君っ!」

 

 レイヴンが慌てる。

 スカートを捲くり上げ、プリムはまるで踏ん張っているかの様に踏ん張っている。

 でも持ち上がらない。

 レイヴンが気付く。


「こんな軽い物を持ち上げられないなんて―――」


 なんと云う非力な少女なのだろうか。

 乙女の恥じらいもかなぐり捨てて頑張っているのに、あんなに軽いレプリカの聖剣すら持ち上げられないなんて⋯


「みゃぁっ!?」

「わっ!」


 プリムの手が滑り、プリムの身体が背後へ勢い良く吹き飛ぶ。

 フルパワーの身体強化をしていた彼女の身体が、反動も加わり縦に半回転。


「いかんっ!」


 校長が焦る。

 その直線上にはレイヴン。

 何の訓練も修行も行っていない一般人の青年だ。

 いくら勇者だと云ってもまだ普通の筈。

 大怪我は必至。

 校長にはプリムに巻き込まれたレイヴンが壁に激突しぐちゃぐちゃになる未来が見えた。

 最悪は死亡、即死するだろう。

 しかし―――


「わぷっ!?」

「むぎゃっ!?」


 ポフンッ⋯と云う間抜けな音を出してプリムはレイヴンにぶつかり、止まった。


「なっ!?」


 ポプリが驚く。


「うわぁっ!?もがぁ!?」


 レイヴンが尻餅を付く。

 半回転したプリムのパンティを顔面に受けて吃驚したからだ。

 しかしそれだけだ。


(なんだとっ!?どうして―――まさか、聖剣かっ!?)


 聖剣は只の岩をどんな魔法攻撃や物理攻撃でも破壊出来ない存在に変えた。

 もしかして、聖剣とは不破の効果を齎すのかも知れない。


「いや、それはそれでおかしいぞ?聖剣からは魔力の流れを感じぬ⋯まさか⋯いや⋯」


 研究者としての探究欲、知識欲がムクムクと大きくなる。


「そ、そんな⋯」


 プリムが愕然としたまま聖剣を見つめる。

 ショックの余り体勢はそのままだ。

 まるで鍛えてなさそうな優男が軽い感じで聖剣を持っていた。

 自分でも持てそうだと判断した。

 しかし持てなかった。

 聖剣に、真の勇者になる夢に否定された気持ちになってしまった。


「ううっ!ううう〜っ!」

「わっ!?ちょっ⋯わぷっ!?」


 今彼女は股間部をレイヴンの顔面に押し付けた状態だ。

 自己鍛錬でたっぷりと汗を吸ったパンティをレイヴンの顔面に押し付け、スカートは捲くり上がってるのでお尻や太腿は丸見えである。


「くっ!くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 そして自身はレイヴンの股間部に顔を埋める。

 悔し泣きしそうになるのを、鼻先をグリグリする事で誤魔化す。


「ちょっ!?やめてやめてっ!」


 レイヴンが慌てる。

 レイヴンのお腹に、ポヨポヨとした柔らかくも弾力性の有る感触が押し付けられているからだ。

 顔面に匂い立つパンティを押し付けられているからだ。

 女の子の顔が股間部をグリグリと擦っているからだ。


「ちょっ!?ちょっとちょっと!いい加減にしてっ!」


 レイヴンはつゆだくパンティ地獄から脱出し、立ち上がりながらプリムをひょいと抱え上げる。


「女の子がこんな端ない事しちゃ駄目だよ?」


 そうして軽く窘めながら、聖剣を拾う。

 まるで重量を感じさせない軽い感じで。


「――――⋯⋯⋯嘘」


 片手に聖剣を持った男のもう片方の手に抱えられ、プリムが呆然とする。


「―――⋯⋯⋯だ」

「え?」

「勝負だっ!僕と聖剣をっ!真の勇者の座を賭けて勝負だっ!」


 半べそになりながらプリムが吠える。

 もうヤケクソであろう。


「えぇ〜?」


 レイヴンは困惑する。

 こんなレプリカの聖剣も、偽勇者の称号も要らない。

 けれど簡単に手放す訳にはいかない。

 此れが偽物である秘密を守る事が、多額の賠償金請求を回避する為の約束なのだから。


「ふむ」

 

 ポプリ校長が目を細めて考える。


「よし」


 丁度良いデモンストレーションとなるだろう。


「では模擬戦じゃ」

「はい?」


 レイヴンが聞き返す。


「初代勇者直系子孫プリムと、二代目勇者レイヴンの、模擬戦を行う」

「はい?」


 そう云う事になった。

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