第6話

 一吾と一桀の行動は早かった。当主からの命令を賜ると、すぐに情報屋が突き止めた宗貞の元へ向かった。


 善は急げではないが、逃げられるリスクを考えてのことだ。二人は用意された車に乗り込み、ホテルへ直行する。


 渋滞に捕まることなく、ホテルの前で降りると、一吾は車へ触れる。


 次の瞬間、莫大な熱量が彼の掌から放たれ、一瞬で車を蒸発させた。一桀は顔を顰め、苦言を呈する。


「誰かに見られたら面倒だよ。少しは慎みを持って行動したほうがいい」

「誰かに見られたらその時はその時だろ。見た奴は運が悪かったってことで」

「やれやれ」


 一吾に反省の様子はない。短絡的な発想だったが、一桀も嘆息するだけでそれ以上咎めない。


 二人は似た者同士。故に気が合い、最強のコンビでもある。


「で、本当に此処に居るのか?」

「らしいよ」

「へー、雑魚のくせにいいところに泊まってんじゃん」


 一吾がホテルを見上げ、笑みを深める。凶暴極まりない笑顔だ。人を殺しているといっても納得しそうだった。


「ちったぁ楽しませてくれるといいんだけどなぁ」


 そう言い、一吾が一歩踏み出す。直後、風が吹き荒ぶ。近くの木々が激しく揺れ動き、落ちていた空き缶が宙を舞う。


 その軌道は一吾の顔面を狙っている。風を切る速度で迫って来る。彼は眉ひとつ動かさず、全身に纏う火力を上げる。指一本動かさずに対処した。


 焼滅していく空き缶には目もくれず、一吾は真正面を見据える。一桀も姿勢を正す。


 彼らの視線の先には男が一人立っていた。


「なんだ、気付いたか」


 そこに居たのは二人が知り、情報屋からの情報通りの男。


 無能者、蘇芳宗貞────蘇芳宗貞だった。


「不意打ちでもしてやろーかと思ったんだけどな」


 一吾は一瞬呆気に取られた後、冷笑を浮かべた。


「久しぶりじゃん、無能者。ちょっとは強くなった?」


 嫌味に対し、宗貞は挑発的な笑みで返す。


「おかげさまで。あんたらより強くなったかもな」

「寝言は寝て言えよ。無能者が力をつけたところでたかが知れてるだろうが」


 鋭い呼気と共に一吾の前方に火球が生じる。一瞬の溜めもなく、そこに顕れた。


 地面を溶解させながら、一直線に宗貞に向かっていく。


 彼は回避の術なく、炎に飲まれた────ように一吾の目には見えた。


「何だ、もう終わりかよ。つまんな」

「いや、待て。何か様子がおかしい」


 炎が爆発し、天を衝く柱。普通に考えれば生きているはずがない。


 しかし、一桀は予感していた。その予感は見事に当たった。


 炎の柱が膨張し、内側から弾け飛ぶ。火の粉が爆風と共に拡散し、二人は一歩退く。


 彼らは目撃し、目を見開いた。


「おいおい、マジか」

「……これは油断ならないね」


 正面に立つ人影。炎で跡形もなく消滅したはずだった。


「手加減してくれてんのか? いいね、嬉しいぜ。そのまま大人しく退いてくれるともっと嬉しいんだけどな」


 無傷の宗貞が愉しそうに嗤っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る