追放された無能者、風術師として大成して帰国する

@gjadmw

第1話

「此処か」


 周防すほう宗貞むねさだは目の前の屋敷を前に頬を引き攣らせた。


 閑静な住宅街。その景観をぶち壊すように建てられた、悪趣味な屋敷。


 何処ぞの漫画家が建てた屋敷よりもよっぽどサイケデリックな色合いの外壁に、屋根には金の鯱鉾が飾り立てられている。


 明らかに周囲の住民の反感を買ってそうだった。


「帰りてー」


 宗貞の嘘偽りない本音。誰も見てないうちに踵を返してはどうかと自問自答する。


 彼が帰りたい理由は何も屋敷の景観だけではない。


 宗貞の視線の先にあるのは屋敷の頭上。そこで渦を巻く昏く澱んだ気。それは瘴気と呼ばれるものであり、人間には百害あって一利ないもの。


 宗貞がこんな郊外まで来たのは、その瘴気の元凶たる悪霊退治の為だ。


(絶対悪霊程度じゃねーだろ)


 しかし、彼は確信に匹敵する嫌な予感を覚えていた。


 瘴気の規模、範囲。どれをとっても悪霊以上のモノが屋敷に巣食っている。宗貞の肌と霊視力はそれを感じ取った。


 屋敷の周囲の空だけが薄暗くなっており、肌を刺すような冷気が漂っている。


(事前情報と違うじゃねーか……仲介人の野郎、まさかこの俺を騙しやがったのか?)


 宗貞が苛立ったようにその場で足踏みをする。直後、彼を中心にして風が吹き荒び、足下に僅かな亀裂が走る。


 宗貞は仲介人の意図を読み取ろうとしたが、結局結論は出なかった。ただ一つだけ心に決めた。


(あの仲介人は二度と使わん。今度会った時はゲロと一緒に吐かせてやる)


 一先ず仲介人のことは忘れ、もう一度屋敷を見据える宗貞。彼としてはもうやる気が底を尽きていた。


 このまま回れ右し、家に戻ってもいい。戻りたいという気持ちに心が傾きかけ、そのまま行動に移そうとしたが、少し判断が遅かった。


 屋敷の門扉が開いていき、中からメイドが姿を現す。美人というほどに目を引くほど容姿が整っているわけではなかったが、人に好感を持たせる愛嬌のある顔立ちをしていた。


 彼女はクラシカルなメイド服のスカートの前で両手を重ね、頭を下げる。


「ようこそおいでくださいました、周防宗貞様」

「……どーも」


 宗貞は舌打ちしたい衝動を抑え、返事を返す。退路を失った。ただでさえ退散したい気持ちに駆られているというのに、その気持ちを無視して話は進む。


「主人が屋敷でお待ちです。ついてきてください」


 メイドが歩き出し、宗貞を案内する。ついに観念した彼は肩を落としつつ、メイドの後を追う。


 せめてもの慰めとして、先を歩くメイドの小刻みに揺れ動く尻を眺めるのだった。

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