プレイバック
小狸
掌編
年の瀬に1年を振り返る、というのは、きっと普遍的なことだと思う。普遍的から程遠い人生を歩んできた私が普遍を語るなという話かもしれないけれど、しかし何かが一区切りつく際には、まとめとか、総括とか、そういうものを提出させられてきた身としては、きっとこんな大振り返り会を心の中で開いていることは決して例外的ではない、と思いつつ、思い込みつつ、年末の12月31日の水曜日に、私はこの文章を書いている。本当に私という人間らしいと思うのだが、私はこれを小説として世に投稿するつもりらしい。この物語はフィクションです。登場する人物・団体は全て架空のものであり、現実とは無関係です。勿論、私自身も含めて。そんな言葉から、この物語を始めよう。
仕事は、昨日で納めた。何とか納まったというか、私の職場は年末年始が繁忙期というわけではないので、まあいつも通りかな、という感じであった。
2025年、令和7年を振り返ると、大変であり、また挑戦的な1年だったな、と思う。
大変だったのは、2月頃の入院が第一に挙げられるだろう。一大事である。幸いにも、生命維持に直結するような病気ではなかったけれど、自然に治るようなものでもなかった。人生初めての入院で、てんやわんやであった。仕事はその間休むことになったし、その罪悪感もないわけでもなかったけれど、一番は小説を書けなくなる状態が、大変苦痛であった。いや、流石に病床にパソコンを持ち寄るわけにもいくまい、という話である。休むべき時に休む。そんなことすら分かっていなかったのだ、私は。だから病気になり、入院になったともいえる。多くの人に迷惑を掛けてしまって申し訳なく、反省した。
思えば大変だったのはそれくらいで、後は職場に関しては例年通りという感じではあったように思う。
繁忙期は忙しく、それ以外はそこそこ、というか。
何か職場で大きな事件事故もなく、無事年末を終えることができた。
同僚や上司が、優秀なのである。
私は――見ての通りポンコツであるので、どうにか周りの方にご迷惑を掛けないようにと、努めて人間の振りをしている、という状態である。今年はそれが偶然上手くいった。
それだけの話なのである。
納めて早々、仕事の話ばかりをするのも何なので、プライベートの話に移るとしよう。
何があったかを列挙すると色々あったけれど、一番物語性を含有していそうな事柄といえば、彼氏と別れた、ということが挙げられる。
別れていたのである。
何か決定的な諍いや何かがあったわけではない。私たちの将来のことについての価値観の違いで、円満に別れた――と私は思っているけれど、あちら様はどう思っているかは、定かではない。まあ、私の書く小説群をお読みの諸賢は想像がつくだろうが、大方は私が、小説ばかりに耽溺していたせいである。彼の厚意を、無碍にしてしまったのだ。私が悪い――とは思うが、私が全て悪いかと言われれば、そうでもない。お互いに合わなかったのだろうな、と、今は思う。そう思うことで、自分の中の何かを維持しているのかもしれないけれど。
私は恋に恋するタイプではないので、失意に暮れたのは一週間程度で、後は吹っ切れてしまった。
故に、今年のクリスマスイブは久々に一人で過ごした。
大学時代からの付き合いだったので、久々、と表現した。
そんな時に何をしていたかと言われると、寂しさを埋めるために新しい彼氏を作るわけでも、冷たさを中和するために豪華な料理を作るわけでもなく、私は私で、「機能不全家族でクリスマスイブを迎える子ども」が主人公の小説を書いていたというのだから、本当にどうしようもない生き物であると思う。
しばらく彼氏は良いかな、と思う。
というか、これは憶測だけれど、私の生き方が向いていないと思い知った。
結婚とか、妊娠とか、出産とか、そういう家庭のあり方に。
現行の日本の「一般的な家庭」とはかけ離れている。小説家を目指しながら、仕事をしながら、全てを求め、全てを欲するのは、あまりにも強欲過ぎるし、無茶過ぎる。全てを両立できるのは、それこそ限られた人間である。私は、限られないし、できない。そう思う。
これを機に金輪際、彼氏を作らないというのも、良いかもしれない。誰か意中の相手がいるわけでもなく、何とか維持していた結婚願望も、彼氏と別れたことによって跡形もなく消失してしまった。
まあ、今は、自分のために時間を使おう。
そう思って、小説を書いているわけだが。
小説――そう、挑戦、と最初に表記したのは、小説に関する挑戦なのである。
とは言っても、別段作家になれたわけでも、何かの賞を受賞したわけでもない――ただ、今年は、普段送らない新人賞に、新作を送りまくった一年でもあった。
純文学、大衆文学、長編短編、ライトノベル、恋愛、ミステリー、SF、ファンタジー、歴史、ホラーなど、手あたり次第に、書き終え、推敲を終えた小説を送りまくった。
唯一、ノンフィクションだけは送らなかった。これは私の主義のようなものなので、またいずれ語ろう。
そういう意味では、非常に筆の乗った一年であったといえよう。
自宅のパソコンの前に、「今年応募した賞一覧表」を毎年(高校時代から)作っているのだが、応募総数は、多分公募してきて一番多かったのではないか、と思う。
彼氏と別れてから特に筆が速くなった、というのが、何だか皮肉に感じる。
まあ、いくら書いて、いくら応募したからといって、簡単に受賞できるというわけではないのが、小説の世界である。内容が伴っていなければ、質が劣っていれば、簡単に振り落とされる。
大体公募新人賞の締め切りがあってから、一次選考が発表されるまでに、賞にもよるが半年から一年ほどの時間を必要とする。だから今年は去年応募した小説の選考結果が発表されたわけだが、今年はほとんど全て撃沈だった。一次か二次には引っかかっていた賞にすら掲載されず、何度書店に足を運んで、文芸雑誌の掲載ページを開いて絶望したか分からない。が、立ち止まってもいられないのである。私は小説家になるための努力を、惜しむわけにはいかないのだ。
同時に、色々な小説を読んだ。小説を書くにあたって、一番の糧になるのは、同じ小説だと、私は思っている。お蔭で読書の幅が広がったので、これからもより広めていきたいと思う。
さて――あまり長くなってしまっても、「掌編小説」という括りに入らなくなってしまう。
今年はここらで、振り返りを終えるとしよう。
しばしよく聞かれたり、自発的に投稿している人も見受けられる「来年の抱負」「来年の目標」についてだが、私はそういうのは発信せず、密かに決めて、胸に秘めておくタイプの人間である。それが格好良いと思っているのかと問われると返答に窮するけれど――まあ、この情報社会である、なんでもかんでも伏線回収情報開示、開けっ広げにする姿勢に、違和感を抱いているのもまた事実である。一つくらい分からないことがあっても良いだろう。
ただ、これだけは確実に言えることがある。
来年も私は、小説を書く。
(「プレイバック」――了)
プレイバック 小狸 @segen_gen
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