「見た目は中年、身分は姫。中身だけが、どう考えても場違い」
魔王の囁き
第1話
第一話 お姫様(五十代・無職・独身)
――暑い。
とにかく、死ぬほど暑い。
「……エアコン、壊れてね?」
それが、人生最後の言葉だった。
真夏の夜。
四十代後半、独身、会社員。
特に悪いことも、立派なこともしていない、どこにでもいる中年のおじさん――俺は、エアコンの沈黙と共に、静かに熱中症でこの世を去った。
次に目を覚ましたとき。
「……ここ、どこ?」
天井がやたら高い。
シャンデリアが眩しい。
そして、身体が重い。
いや、重いというより――見慣れている身体だった。
目に入ったのは、金縁の全身鏡に映っていたのは――
腹が出た
顔に年季
目の下にクマ
ヒゲの剃り残し
完全に中年男性
「…………」
間違いない。
「俺だな?」
声も、完全に俺のままだった。
だが。
「お目覚めでございます、姫様!」
バタンッと扉が開き、数名のメイドが雪崩れ込んできた。
「……え?」
「ご無事で何よりでございます、王女アーデルハイト様!」
「姫……?」
メイドたちは、心の底から真剣な顔をしている。
視線は一切ブレていない。
腹も、シワも、加齢臭も、すべてを無視して――。
「いや、ちょっと待って。俺、どう見てもおっさんだろ」
「……?」
メイドたちは首を傾げた。
「姫様……ご冗談を」
「冗談じゃねえよ!」
慌てて立ち上がろうとした瞬間、ふらりとよろける。
「姫様!」
支えに入るメイド。
その手つきは、敬意に満ちていて、一切の侮りがなかった。
混乱のまま、事情を聞かされる。
この国の第一王女であり、呪いによって「異形の姿」に生まれた。だが王家の血統は絶対であり、「姿で人を判断するのは愚か」という教育方針の為、結果、姫として扱われ続けている
「……なるほど?」
つまり。
この世界では――
「中年太りのおっさん顔でも、姫は姫ってことか」
「はい!」
即答だった。
ただし。
問題は城の外だった。
城の外に出ると、人々の反応は一変する。
「……なんだあれ」
「姫様、らしいぞ」
「気味悪いな」
「呪われてるんだろ?」
露骨な視線。
囁き声。
恐怖と嫌悪。
俺は思った。
(あー……これは現代日本と同じだな)
見た目で判断される。
年齢で線を引かれる。
期待されない。
――慣れてる。
だが、ひとつだけ違った。
「姫様、どうなさいますか?」
隣に立つ騎士が、真剣に俺の判断を待っている。
俺は、少し考えてから言った。
「……城に引きこもるのは、やめよう」
「え?」
「どうせ差別されるならさ」
鏡に映る、腹の出た姫様を見て、苦笑する。
「好きに生きた方が得だろ?」
誰かに期待されなくてもいい。
王女らしくなくてもいい。
見た目がどうあれ――
「俺は、俺として生きる」
中年おじさんのまま。
姫として。
こうして――
史上最も貫禄のあるお姫様の自由すぎる異世界生活が、静かに始まったのだった。
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「見た目は中年、身分は姫。中身だけが、どう考えても場違い」 魔王の囁き @maounosasayaki
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