努力魔王
魔王の囁き
第1話
魔王城の朝は、早い。
まだ空が白む前、分厚い石壁の奥から「フンッ……! フンッ……!」という掛け声が響いていた。
その音の発生原因は、中庭に立つ男――魔王である。
角は小さく、翼もない。身長は人間とほぼ同じ。
威圧感はあるにはあるが、それは長年の苦労が染みついた疲労の貫禄だった。
魔王は、汗をかきながら腕立て伏せをしていた。
――二十七。
――二十八。
――二十九……。
「くっ……!」
三十回目で腕が震え、ついに崩れ落ちる。
「……今日も、三十が限界か」
息を整えながら、魔王は天を仰いだ。
魔王の体力は、決して高くない。
筋力も、正直に言えば、人間の冒険者の平均以下だ。
それでも彼は毎朝、欠かさず鍛錬を続けている。
理由は単純だった。
「努力は裏切らない。……はずだ」
魔王は、真面目だった。
この魔王城は、彼が若い頃から一人で、少しずつ建ててきた城だ。
一晩で建つ魔法の城ではない。
召喚された魔物たちが一瞬で作ったものでもない。
石を運び、壁を積み、崩れては直し、気づけば数十年が過ぎていた。
「根性があれば、いつか完成する」
そう信じて、黙々と積み上げた結果が、今の城だった。
その努力を――
「魔王だ! 討伐だー!」
今日も元気よく、勇者一行が壊しに来る。
「来たか……」
魔王は剣を握り直す。
その剣も、決して名剣ではない。
何度も折れ、何度も研ぎ直した、傷だらけの一本だ。
「逃げても、逃げ切れない。なら――生き延びるしかない」
戦いは、毎回ギリギリだった。
一撃もらえば致命傷。
魔法を受ければ即終了。
それでも魔王は、地形を覚え敵の癖を観察し、一度負けた技には二度と引っかからず。生存だけを目的に戦い続けた。
勝利ではない。
討伐されないこと。
それが彼の目標だった。
気づけば――。
「最近の魔王、やけにしぶといぞ」
「一度逃げた技、二度と通じない」
「防御がうまい……?」
勇者たちの間で、そんな噂が流れ始めた。
一方、魔王城の片隅で。
「……昨日より、剣の振りが速くなってるな」
魔王は、自分の成長を静かに噛み締めていた。
派手な覚醒はない。
突然のチート能力もない。
あるのは、
努力。
根性。
切磋琢磨。
そして、
「今日を生き延びた、という事実だけだ」
魔王は知らない。
人々がこう呼び始めていることを。
「――あの魔王、なんか“弱く”ない?」
「雑魚だよな……」
「虐めてやらない?」
こうして――最弱にして、最も真面目な魔王は、討伐されないまま、少しずつ強くなっていく。
それが、 努力と根性で生き延びる――
真面目魔王の物語である。
努力魔王 魔王の囁き @maounosasayaki
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