第1話 水族館で決めましょう!~後手番~

「さて、次は私か」


 私、小早川白兎こばやかわはくと隠岐優弦おきゆづるにゆっくりと近寄る。

 この一時間は無駄な一時間だった。思い返して不快感が全身から漏れだしそうになったので気づかれないよう霧散させる。これからデートする相手があからさまに不快感を溢れさせていたら彼は楽しめないだろう。これが亀井凪咲かめいなぎさの作戦なら見事だが、私の見立てでは彼女はそこまで頭が回るタイプじゃない。ふわふわした印象の亀井凪咲かめいなぎさは、印象通り何も考えていないことが多いと最近理解してきた。ふわふわした印象の方は最近どんどん薄れていっているけども。

 今週の月曜日、亀井凪咲かめいなぎさからデート勝負なる莫迦げた勝負に挑まれた時、断ったものの、実は少し興味がわいていた。女の子らしさを体現したような彼女は、どういうデートをするのだろう。幼いころの私は女の子らしさを不要と切り捨てた。でも女の子らしいデートへの憧れまでは捨てきれていなかったのかもしれない。結局は、私の日報を読んだ父の勧めもあり、このデート勝負を受けることとなったが、無駄な時間だった。あの父であっても突拍子もないことの評価までは正確に下せないらしい。

 と、また余計なことを考えてしまった。私の悪い癖だ。純粋に彼とのデートを楽しもう。

 「歩き回って疲れただろう。そこのカフェでお茶しながら感想でもいい合わないかい?」

 「いいの?僕は大丈夫だけど小早川さん、あんまり見られなかったんじゃない?」

 「いいんだ。君がどう感じたのか、そっちの方が何倍も興味がある。それに本音を言うと私が座ってゆっくりしたいんだ。また見たくなったら誘ってもいいかな?次はふたりきりで」

 「僕でよければもちろん」

 どこからかか「途中でベンチで休んだらよかったじゃん」と恨めしそうな声が聞こえる。誰のせいで疲れたと思ってる。


 優弦ゆづるはクラゲが好きなようだった。私の周囲にもクラゲが好きだという人は多い。思い返すと今日一番混雑していたのはクラゲコーナーだった。クラゲの何が良いのだろう。ふわふわと浮いて、なにも考えてなさそうで。...ん?

 「では残りの時間はクラゲコーナーのベンチでゆっくりとクラゲを眺めていようか」

 会話をそこそこに切り上げ、会計を済ませてクラゲコーナーに向かう。無理に会話をひねり出して時間と間を持たせるのは、良いデートとは言えないだろう。私たちはまだお互いのことを知らない。これから少しずつ無理なく会話できる時間を伸ばしていったらいい。

 クラゲコーナーのベンチに並んで座り、ぼうっとクラゲを眺める。今日は本当に疲れた。ふわぁとあくびが零れた。

 「意外。小早川さんもあくびするんだ」

 「私も人間だからね。心地よければあくびの一つくらい出るさ」

 意識が朦朧としてきた。これは経験上、すぐ眠ることになる。眠りに落ちる前に伝える。


 「きょうはたのしかった。こんごともよろしく」 

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