虚像


 ふふふ。あはは。


 こうして、自分の一番大きな夢をかなえて、その後、この夢をずっと応援してくれたあなたと飲んでいるなんて、信じられない。ほんと、嘘みたい——

 ああ、じゃあ、嘘みたいな話も、今なら、聞いてもらえるかしら?


 私のね、ターニングポイントは、Ⅹ年前のオーディション。あれに合格したからっていうのはあなたも知っていると思うけど、あれね、裏があるの。

 実は、最大の有力者の子がね、オーディション当日に病気で来れなかったの。だから、実は私、繰り上げ合格だったのよね。

 それを知ったのは、オーディションから数年後で、驚いたけれど、納得してた。だって、当時の私の実力じゃ、あと一歩足りていなかったから、合格に。


 とまあ、冷静に自己分析してたんだけどね、それだけが理由じゃないの。もう一つの理由ってのがあって、その、嘘みたいな話、なんだけど。

 合格してから、時々、鏡に映る自分の様子が変だった。……ううん、疲れて見えるとか、そういうことじゃなくて、なんというのかな、私だけど、私じゃない、みたいな。


 ごめん、上手く説明できなくて。何が違うって言われたら、雰囲気が、ってしか答えられないの。見た目は、服も髪型も、同じだけどね、自分にしか分からない違いがあったの。

 あ、そう、目。目の輝きが、全然違っていた。あの頃の私は、デビューに向けた練習と打ち合わせの日々で、毎日とっても疲れていた。でもね、鏡の中の私の目は、きらきらと輝いていたの。


 瞬きしたら、すぐ消えてしまう、一瞬だけの違和感だけど、やたらとね、その目の輝きだけは、覚えているの。きっと、その後に見えた本来の私の目と——沈んだ暗い目とのギャップが、あまりに大きかったのでしょうね。

 そんなことが何回も、メジャーデビューした後も、起き続けて、私は察したの。あれは、まだ夢を追い続けている私だって。


 子供みたいに純粋に、努力をすれば、夢は叶う! と信じ切っていたあの頃。ほんの少し前まで、自分も同じ目をしていたのに、その眩しさには、失ってから気付いたの。

 ……そう、失ってしまった。夢見た音楽の世界は、とてもシビアで、一瞬でも油断したら、すぐに蹴り落とされるような弱肉強食の世界。加えて、運だけでここに入ってしまったような私だから、今の居場所を守るので精いっぱいで、酷く疲弊していた。


 だからなのね、繰り上げ合格だったという事実も、すんなり受け入れられた。それと同時に思ったの。鏡に映る私は、もしかしたら、あのオーディションに合格していない世界の私なのかなって。

 荒唐無稽だけどね、そうとしか思えない。あの子は、あの世界の私は、夢を叶えられなかったけれど、その分、一生懸命に夢を追い続けていられる——。


 でも、今日のライブの話が出た時から、私は鏡の中に、別の私を見ることは無くなったの。あの子も、別の形で夢を叶えたのかしら? それとも、夢を諦めてしまったのかしら?

 正直、どっちでもいいの。他人事だから、じゃなくて、夢を叶えても、諦めても、それまでの努力は、大切なあの子だけの宝物だから。そう思うと、自分のことなのに、嫉妬で狂ってしまいそうになるね。
















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虚像の差異 夢月七海 @yumetuki-773

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