第1話 モブ、モブになる

 おい、ここはどこだよ。

 

 俺は戸惑いながら状況を整理する。


 あの時、間違いなく俺は大きな音と衝撃に見舞われた。可能性としてはガス爆発。

 もし、あの後奇跡的に助かったのなら俺は病院にいないといけないはずだ。

 しかし、目に映るのは明らかに電気でないランプの火がゆらめきながら質素な木造の部屋を照らしている。

 ベッドのシーツは病院の真っ白なシーツから程遠い黄ばんだシーツだ。窓にはガラスの窓ではなく、開閉式の木の板で塞がれている。


 どう考えても日本の光景ではない。どちらかといえば中世のヨーロッパのイメージである。


 こんな汚い病院見たことないな。ここ日本じゃないだろ。


 いや、まだ微レ存で田舎の病院かも、、、。ふー、絶対にないな。

 

 現実逃避はやめよう、だって目に映る自分の身体が明らかに縮んでいる。そこから導き出されるのは、、、まさかの転生ものなのか!?俺の時代が始まってしまうのか!?


 ふー、落ち着くんだ大聖。俺つえーができるかもしれないんだぞ大聖。その力で世界征服も夢じゃないぞ!


 都合のいい妄想でトリップしていた俺はドアの開く音で現実に戻される。


 入ってきたのは給仕服を着た美人のおねぇ、、さんではなくふてぶてしいおばさんがやってきた。

 

 一気にテンションが下がる。異世界転生とくれば美人のメイドさんがデフォなのに、、、。神様、やり直しを直訴します。


「坊ちゃん、目が覚めたんですか!?すぐに奥様を呼んで来ます!」


 俺の悲しみを他所におばさんは急いだ様子で出ていってしまった。


 少しすると複数の急いだ足音が近づいてきた。そして部屋に入ってきたのは、20代後半の美人な女性と同じく20代後半のワイルドイケメンな男性、そして10歳位の女性の遺伝子をしっかり受け継いだ美少年だった。


 この3人のことを大聖の記憶では知らない。しかしこの身体の記憶なのか、朧気ながら理解している。美人の女性はこの身体であるタイセイの生みの親、母親のサフラン・オーステック。ワイルドイケメンの男性は父親で男爵のアラン・オーステック。正統派美少年は兄である、クライ・オーステックだ。


 朧気な記憶で経験したしっかりとした記憶というより、流し見しながら見たテレビの記憶のようなどこかはっきりとしない記憶である。だからいまいち3人との距離間が分からない。


「おはようございます。」


 とりあえず俺は無難に挨拶をしてみる。

 

「どうしたんだタイセイ、口調が変だぞ?まだ意識が混濁しているのか?」


 記憶の混濁?ナイスアシストだ、ワイルドイケメン。俺はその言葉に乗っかって情報収集をする。


「そうかも、しれない。僕って何歳だったっけ?」


 普段なら一人称は俺だったが、僕の方がすんなり出てきたため、おそらく子の体の主だった少年の一人称は僕だったのだろう。何だか気持ち悪い。だが怪しまれないように記憶に従おう。


「タイセイ、あなたは先月、5つになったばっかりよ。やっぱりまだ、本調子じゃないのね。」


 俺はサフランさんに頭を撫でられる。サフランさんの手はなぜだが落ち着く。まだ頭では理解できていないが、心が覚えているのだろう。


 それから流動食を食べ、俺が休めるよう、心配をした様子だったが3人は部屋を出ていった。


 俺は状況を理解するため、記憶を辿りながら、部屋を見回す。

 そして手鏡を見つけた。

 顔立ちの整った家族を見た俺は、期待に胸を膨らませ、鏡を見た。

 そして俺はこの世界で初めての絶望を味わったのだった。


 そう、イケメン、美人の子の俺はフツメンだったのである。今日一のショックな出来事である。髪を引き千切るほどのストレスだったが、髪の毛は生命より大事なのでそっと髪から手を離した。


 そして1時間くらいでショックから立ち直った俺は、何でこんな状況に置かれているかを探るため、

この体の記憶を思い返す。


 時間をかけて分かったのは、この少年の絶望だった。絶望の理由は高すぎる目標のせいで、自分自身を追い詰め、理想に届かず自分を卑下する。それを何度も繰り返し、自分自身に絶望したのだ。


 この少年はできる努力を一生懸命頑張っていた。しかしこの少年の目標は天才という言葉ではまだ生温い、才能の塊のような兄との比較だった。

 両親は一切そんなことはしていなかったが、他の町人はそんな人ばかりでなく、やはり優秀な兄と比べられ続け、心が壊れかけていた。

 いっそ自分を諦め切れたら楽だっただろうが、いかんせんこの少年は真面目過ぎた。やれば出来るという、思い込みにより自分を追い詰めていったのである。

 もう少し大人になれば違う努力の仕方も出来ただろうが、本来なら何も考えずに遊び呆けている5歳にも関わらず努力を続ける真面目な少年だったのだ。

 そして少年は一線を超え、絶対にやってはいけないと言われていた魔素枯渇を繰り返し、最悪の結果である精神消滅にいたり、この少年の精神がなくなった。そこになぜか俺の精神が入り込んだようだ。


 なぜこんな事態になっているかは分からないが、俺に出来るのはこんなに頑張ってきた少年の名をこの世界に轟かすくらいだ。

 なので俺はゲームで出来なかった、この世界の完全なる天下統一を目指そうと思った。そうすればこの少年の名前を世界中に知らしめることができる。

 これがいろいろ考えた末に思い至った、俺の納得できる少年への供養だ。


 そのためにまずは動けるように身体を休める必要がある。問題は山積みだが、まずは今やるべきことからやろうと、俺は横になり眠りについた。

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