初ボス前のライカ~地味な異世界ミリタリー

山田 勝

初ボス前のライカ

「これより。ライカ・ヒュラーとアギト・スズキの決闘を行う。見届け人は我輩、マッケインだ。職制は王国騎士団長である」



領地紛争に王国が介入した。ヒュラー侯爵家と、転移日本人スズキを擁するドウラ子爵家の争いだ。


一見、侯爵家が優勢とみられたが、侯爵、及び子息達は討ち死に、騎士団も壊滅した。

スズキは銃を持っているからだ。


どのような鎧も兜も5.56ミリ弾の前には用をなさなかった。


「へえ、マッケインさん。王国の騎士団?読めてきた。最終ゴールは王女か。まだ、初ボスも倒していないのにゴール早くない?」


「・・これ、スズキ殿!言葉を慎みたまえ」


騎士団長は一喝するが、スズキたちは意に帰しない。


「アギト殿、我が娘が先ですぞ?」

「子爵、もちろん、分かっているよ。でも、王女に惚れられたらどうしよう」

「まあ、アギト様、私がおりますのに」

「僕もいるぞ!」


スズキの周りには犬獣人と子爵令嬢がそれぞれ両の手を取り。寵愛を求めていた。


対して、それを見つめるのは、ライカ、17歳の侯爵令嬢、三ヶ月前は優しい父母と兄たちに見守られ大勢の使用人にかしずかれ、婚約者と愛を育んでいた。

その婚約者はもういない。一撃でスズキに殺された。


その相手にライカは魔法杖を手に決闘を申し出たのだ。

自暴自棄だと誰もが思っていた。


使用人は二人しか残っていない。給金が払えなくて大勢の使用人に暇を出した。


「ヒュラー家は、ライカ嬢と執事セバン、メイドのリリーの三人、スズキ殿は、犬獣人のキャリーの二人で間違いないか?」


「はい、間違いなしですわ」


「キャハハハ、そうだ。子爵、晩飯はローフトビーフがいいや・・・え、何?」

「ズズキ殿は二人、ヒュラー家は三人で申し分ないか?」

「はい、OK」


「それで勝者の権利だが?」


ライカは手をあげた。


「片や消しでお願い申し上げます」


「「「はあ!」」」


これには一同驚いた。片や消し。負けた方の一族が皆殺しに合うのだ。


「あ、何でもいいや。どうせ勝つのは俺だし。そうだな。そちらが負けたら、ライカちゃんだけは俺の下女ね。後はキルでシャース」


「良いですわ」


「では、この村を舞台に合図を元に戦闘を始める。それまで各自、陣地を構築するなり準備するが良い」


「あ、サバゲの市街地ね。俺チョー得意。人をフラグにするのか」



・・・・・・・・・・




私はライカ、ヒュラー家の一人娘、今、当主はお母様だ。

紛争で無人になった村が決闘の舞台だ。


「ここを陣地にしましょう」


石の作りの屋敷を陣地にした。石は鉄礫を通さない。これはお兄様たちが身を持って解明してくれた。


「「はい、お嬢様」」


彼らは忠臣だわ。私に命を預けてくれた。


ドン!ドン!ドン!


太鼓の音がなったわ。決闘が始まる。


「み~つけた。アギト様に報告!今夜は可愛がってもらうぞ」


すぐに犬獣人に見つかった。

ここまでは予想通り。


「さあ、準備しましょう。異世界人殺しの秘技、対異世界人戦闘術を見せるわ」


「「はい、お嬢様」」


『異世界転移して銃をバンバンする奴は馬鹿だぜ・・』


お師匠の言葉が浮かんでくる。




私の復讐は逃げる事から始まった。



☆回想


「ライカ!逃げなさい。ドウラ子爵家軍が来るわ!」


「お母様!私はヒュラー家の娘として・・・」


「ダメだわ。全財産没収よ。貴方も財産目録に入っているわ。奴隷にする気だわ。私とセバンが対応します」


おかしかった。たった、一週間でお父様を始めお兄様、婚約者のニコルまで戦死した。


『にーまるしき』という異界の武器にかなわない。まだ、葬儀も終わっていないのに。


悲しみにくれるいとまもない。


「貴方の優しい魔法を必要としてくれるところがきっとあるわ。これが家に残った財産よ。逃げなさい」


「お母様は?一緒に・・」


「私は老婦人よ。スズキは無視するでしょう。ヒュラー家の最後の当主として責を全うします」


「お母様!」


私の魔法は風魔法だ。広く浅くそよ風を起す。

畑にそよ風を吹かせ。害虫を飛ばし。受粉を促す。とても大事な魔法だが、用途が限られている。


冒険者ギルドで途方にくれていると、鉱山に職を得た。


有害なガスを作業員に接触させないために風を吹かせるのが仕事だ。


そこで、異世界人に会った。一目で分かった。黒い瞳に白髪が交じっているが漆黒の黒だ。爆裂魔法師、ヨネゾウ氏だ。


彼は『にーまるしき』とは違う筒を肩から提げていた。


「よお、新入りか?よろしく。俺、米蔵、爺ちゃんがこんな名をつけやがったがまだ40前だぜ」



私は震えた。こいつは我が一族を殺したスズキの仲間だろう。

しかし、体が動かない。怖い。


「・・・ほお、銃の怖さを知っているか。これ、魔獣対策用の64式だ。人は殺さないぜ。話聞こうか?」


「・・・何なんですか?貴方は・・」



ヨネゾウ殿は、異世界の騎士団出身だったそうだ。

侯爵令嬢である私がここに来た理由を話した。


「異世界転移して銃をバンバンする奴は馬鹿だぜ・・」


「あのその銃をお貸し下さい」


「ダメ。銃は人には触らせない」


「なら、復讐をしたいです。弱点を教えて下さい」


「弱点?あるぜ。あることはあるが、異世界転移者で現代武器を使う成功者は聞かない。暗殺されたり仲間に裏切られるからだ。

 姉ちゃんも過去は忘れて幸せを探しな。スズキって奴も自滅するぜ」


「教えて下さい!体・・・を好きにしていいです!」


「阿呆、女房がいるのに!」


「あれ、ヨネゾウ君、その女は何かな?」

「サーシャ、これは違うのだ!ほら、姉ちゃんも土下座止めなさい!」


奥様はダークエルフの美人だ。


その後、奥様の口添えもあり。

方法を教えてもらった。


「本当にやるのか?一度、戦いをしたら、戦いを呼び。修羅の道だぜ」


「はい、やります」




・・・・・・・・・・・・・・・・・



バン!バン!


銃声が響く。あれは三連斉射とう機能ね。

あれから20式を召還してもらって、訓練も受けた。


「セバン、リリーは合図をしたら私の後ろに隠れて」


「「はい、お嬢様」」

「たき火。完了しました」


「そう、有難う。あれを投げ入れて」


たき火の中に硫黄と錬金術師から買った燃える水の出来損ないを入れる。


ブワーと黒煙が立つ。


「私の後ろに!」


私は魔法杖を掲げ。まるで、舞台の女優のように口上を述べた。

たぎっているのかもしれない。


【対異世界人戦闘術!毒霧!】


魔法杖が青く光り風が吹いた。煙はスズキの方に向かう。


『毒ガスって兵器がある。そりゃ、使っちゃいかん条約があるが、どこの軍隊も防毒マスクの訓練はやる。使う時は使うからだ。それにテロ組織が使うかもしないしな」


スズキはおそらく騎士団とは無関係の平民、なら付けいる隙がある。


『そもそも、現地レベルでは毒ガスの発見は至難を極める。人が死んで初めて分かる。ほら、鉱山でもあるだろう。小鳥を籠にいれて毒煙を発見しようとする・・・』



バン!バン・・・・


銃声が止ったわ。

おそらく、死んだ?



「セバンとリリーそこで待機、私が見に行くわ」


「お嬢様、なりません。この爺に任せて下さい」


「それはリーダーの役目よ。セバンはリーダーなのかしら」

「お嬢様、危険です」


私はローブを羽織ったまま、スズキにいた方向に向かう。

途中、犬獣人が死んでいた。獣人族は敏感だから直撃をくらったのか?


スズキは・・・


いた。

地面に伏している。


「ゴホ、ウギャー、ゲホ、ひ、卑怯者!」


私は名乗りをあげた。


「ヒュラー家のライカ、一族の仇を討ちます。スズキ殿、最期の言葉は?」


「ヒャハアアアーーーーー!」


スズキは上体を起し。銃を乱射した。目から血が出ている。よく見えないようだ。


バン!バン!


数発、私のローブに穴が空いた。


カチャ!カチャ!・・・


弾はなくなったようね。弾倉をつけようとするが、蹴って遠くに飛ばした。

これも師匠から銃の構造を習ったおかげだわ。


「ゲホ、ゲホ、ゴホン、ポーション!ポーション!」


「失礼」


私は彼が手に持つポーションを足蹴にして割った。


「え、何故・・・死なないの?ポーション!」


私はナタを振り上げて、彼の首に振り下ろした。


私が死なないのは師匠のおかげだ。



『おい、銃と戦うのなら、防弾チョッキを着なきゃだめだよ。ほれ、これ、サーシャが作ってくれた防弾チョッキだ。もってけ』


『有難うございます。これは・・異世界の素材ですか?』

『いんや。小麦粉とかだな。非ニュートン流体と呼ばれるものだ。5.56ミリ弾ならとまるかもな。後でレシピ渡すわ。

 お前さん。銃で困っている人に教えてやれよ』


『はい、お師匠、有難うございます!』



ザクッと音がしたが、急所を外れたようだ。


「ヒィ、ゴホン、グスン、グスン、ママ!」


「失礼、次はきちんと仕留めますわ」


憎いと言えば憎い。合計五回で首が取れた。3回目からは息の音が消えた。


「セバン、悪いけど、首を持って」

「お嬢様、命じて下さい」


ここでやっと、お嬢様から女主人になったと自覚した。





・・・・・・・・・・・・・・



私は二人を背後に連れ。マッケイン殿に報告した。


「ご令嬢、覚悟は出来ましたか?武家の者として同情します」


どうやら私がスズキ殿の妾になったのを了承したと思ったようだ。


「いえ、私の勝ちですわ。記録をお願いします」


セバンが首を見せると、マッケイン殿はみるみる表情が変わった。

「な、何と、異世界人を野戦で倒されたのか?どうやって」


「なら、実践して見せますわ。勝者の権利は片や消しですわね」


「ああ・・・」


ドウラ一族の者を天幕に集めてもらった。


「ほう、スズキ殿はもう勝ちましたか?」

「スズキ様は?」


「勝者、ライカ嬢、により処刑を行う!」


「え、間違っていますよ」

「そうよ。負けるはずがないわ」


天幕の周りに兵を配置してもらって、私は毒霧を天幕に注ぎ込んだ。


そして、逃げる者は王国騎士団の騎士達が弓矢で射殺す。


屋敷に残った一族は、そのまま閉じ込めて火をかけてもらった。



もう、私は後戻り出来ない。修羅の道だ。


ヒュラー家は遠縁の子を養子に迎え跡継ぎにした。



「ライカ殿、是非、王国騎士団の顧問に」

「いいえ。方法は異世界人から学びましたわ」


誘いを断り。冒険者になり。現在も異世界人を狩っている。



☆☆☆



「ライカ!異世界人は馬無し馬車で来るよ!」


「ヨシ、奇襲を実行する。盗賊職のミリーは車止めを設置!」


「魔道師班は止ったら一斉にファイヤーボールを集中砲火、車はガソリンで動いているものだ!」


「「「了解です!」」」


異世界人殺しのライカと人は呼ぶ。

だけど、異世界人からは初ボスとも認められていない。


それは死ぬからだ。死ぬから情報の伝達はない。

普通の人族の私を脅威にすら感じていないわ。


名は立たないがそれで良い。異世界人で困っている人を助けるのが私の役目だわ。



でも、何で、異世界人はミリタリー能力を衛生、土木、爆破に使わずにまるでゲームのように戦争をしたがるのだろう。


考えても仕方ない。分かるまで私は冒険者のリーダーとして戦う定めなのかも知れない。

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