第36話 【音録石】ミレットとルキア

【物件番号:  】音録石(マジックレコーダー)の記録

回収場所: ギルド地下金庫

回収日: 王暦125年  月 日



以下は、ミレット調査員と王都の歴史家ルキアの会話の音録石である。一部欠損が見られるが、内容に支障なし。



ルキア:

「君の名前はミレットで間違いないか?」



ミレット:

「あのー、どなたでしょうか? 知らない人に話す義理はありません」



(ルキア、身分証を取り出す)



ミレット:

「え、ルキア!? あなたは、もしかして――歴史編纂部の……?」



ルキア:

「ほう、私のことを知っているとは、感心だ。名前は『王都歴史録』にしか載っていないはずだからな」



ミレット:

「学校で習いましたから。自ら情報を集めるって。でも、そんな方が私に用ですか? 数日前から、視線は感じていましたが」



(ルキア、目を見開く)



ルキア:

「なんと、それを見抜いていたか。さすが調査員。目の付け所が違う。さて、世間話もここまでにしようか。早速だが、いくつか聞きたい」



ミレット:

「私に分かることであれば」



ルキア:

「まず、君はなんで独自調査をしている? ギルド所属なら、長の命令通りに動けば問題ないはずだ」



(ミレット、困惑した表情で話すべきか迷っている)


ミレット:

「ルキアさんだから、話します。最近、村の様子がおかしいんです。『安らぎの洞窟』は危険なのに、新米冒険者が来るように煽る掲示板をセットしたり、前より冒険者に対して冷たかったり」



ルキア:

「君は気づくのが遅すぎる。村にいながら、やっと気づいたか。この村は狂気であふれている。4年前よりひどくなっている」



ミレット:

「4年前にも来られたんですか!? でも、その時は有名人が来たっていう噂は聞かなかったですけど……」



ルキア:

「有名人は大げさすぎる。話が逸れた。具体的に君は何を成すつもりだ? 闇雲に捜査しているわけじゃあるまい」



ミレット:

「同僚が――ギルド長の速記官が行方不明になったんです。彼の行方が気になって」



ルキア:

「もしかして、ワット青年か? 4年前に会った記憶がある」



ミレット:

「そうなんですね。実は、ワットさんは遺体が見つかってないんです。だから――」



ルキア:

「だから、死んだのか疑わしいと。70点だ」



(ミレット、70点という評価にうなだれる)



ミレット:

「では、残り30点を積み上げるには、どんな考察が必要なんですか?」



ルキア:

「それを自力で考えてこそ、身につくものだ。さて、最後の質問だ。君はギルド長のギルベルトについてどう思う?」



ミレット:

「長についてですか? すごく親身で優しい人です。たまに、何を考えているのか分かりませんが……」



(ルキア、ため息をつく)



ルキア:

「そうか、そうなんだな。君には人を見抜く力がないらしい。君とはここでお別れだ。もしかしたら、また話す機会があるかもしれない。それまでに、君が真実に近づいていることを願うよ」



(ミレット、首をかしげる)



ルキア:

「では、私はここで失敬する」



(ルキアが音録石を手に取ると、すぐに電源がオフになった)



【研究員のメモ】

ルキアという女性の言葉が、私の胸に突き刺さる。

「君には人を見抜く力がない」

私が「学生」だと思っていたものは、本当に学生なのだろうか?

鏡に映る自分は、本当に佐藤なのだろうか?



【研究員のメモ:追記】

今、部屋の隅で、ワットらしき男が虚空にペンを走らせている。

彼は「歴史の緻密さと、ホラーの狂気を、論理で編み上げる」と、つぶやいている。歴史を論理的に編み上げるという視点は素晴らしい。学生に見習ってもらいたいものだ。

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