第18話 【音録石】靴屋ヘイゴン

【物件番号:  】音録石(マジックレコーダー)の記録

回収場所: ギルド地下金庫

回収日: 王暦125年  月 日



以下は、ミレット調査員と靴屋ヘイゴンの会話の音録石である。一部欠損が見られるが、内容に支障なし。



ミレット:

「ヘイゴンさん、今日は聞きたいことがあって来ました」



ヘイゴン:

「聞きたいこと? なんだい、最近は探偵ごっこでも始めたか?」



ミレット:

「ごっこではありません! それに、これは調査です。ですから、 をつかないでください。いつもみたいに嘘ばっかりだったら、ギル 長から雷が落ちますよ!」



ヘイゴン:

「興奮しなさるな。で、何を答えればいいかい? ロゼーヌ婆さんの好物かい?」



(沈黙)



ミレット:

「私が聞きたいのは、ここ数日に怪しい人が来なかったかということです」



ヘイゴン:

「ここ数日ぅ? そんな記憶力ないっぺ。昨日の夕飯が限界だべ」



ミレット:

「でも、帳簿をつけてるでしょ? 知ってるんだから」



ヘイゴン:

「……。おっかぁにバレたら、それこそ雷が落ちる。サッと目を通してくれ」



(バサッという音。帳簿が投げ出される)



ミレット:

「ありがと」



(ミレットが熱心に帳簿を見るが、頭を抱えている)



ミレット:

「ねえ。これ、ヘイ ンさんの趣味しか書いてないじゃない!」



ヘイゴン:

「そりゃ、個人的な記録だべ。それで、もういいかい?」



ミレット:

「ちょっと、待って。昨日、ワットさんが来たの!?」



ヘイゴン:

「うんだ。ありゃ、 飯前だった。おっかぁが作ってるシチューの匂いがした。間違いないっぺ」



ミレット:

「確かに、ここには20時前って書いてある……。プレゼント用のラッピング?」



ヘイゴン:

「それが、おいらも訳分からん。やっこさんは1か月前に買ったばかり。新 よ、新品。うちの靴は3年は持つ。それがうちの唯一の長所よ」



ミレット:

「なるほど。そうなると、この靴には何の意味が……? それよりも、16時前の客! 大きい靴買ってるじゃない! これ、どこの誰?」



ヘイゴン:

「それが分かれば苦労しないさ。ありゃ、本当は銅貨9枚の品だったんだ。それを、銅貨6枚で売っちまった……。銅貨3枚分、損したわけさ!」



ミレット:

「じゃあ、代わりに探してあげるから、靴の特徴を教えてよ」



ヘイゴン:

「あれは――銅製で、うーんとでかい!」



(ミレット、ノートを差し出す)



ミレット:

「これに絵を描いてよ。絵、描くの得意でしょ? いつも、靴の設計してるから」



ヘイゴン:

「お、いい案だ。さて、数秒もらおうか」



(ヘイゴン、10数秒の間、熱心に靴の絵を描く)



ヘイゴン:

「こんな感じさ」



ミレット:

「さすが! ありがとう。これ、少しは足しになるといいんだけど……」



(ミレット、何かを手渡す)



ヘイゴン:

「こ、こ、これは。銅貨3枚!」



ミレット:

「本当は、ギル のための調査じゃないから。それで、昨日の損はチャラでしょ?」



ヘイゴン:

「へへ、気がきくじゃないか。お、客が来た! ちょいと、どいてくれ」



ミレット:

「ヘイゴンさん、また来るね。新しい靴買いに」



ヘイゴン:

「そりゃ、1年と3か月後だな。うちの靴は――」



客:

「ちょっと聞きたいんですが……」



ヘイゴン:

「おお、昨日の女神様!」



(ミレット、音録石を手に取る。数秒後、電源がオフになる)

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