第5話

「は? 死んだ?」

 翌日、ミノルを待っていたのは係長からの嫌な報告だった。昨日のスペクターの売人が留置所で亡くなっているところを、今朝発見されたという。アルコールでの頭痛が、一気に吹き飛んだ。

「口封じってことですかね」

 当たり前のような顔をしているクミが呟く。学校はいいのか。あと物騒だな。

「目立った外傷もなし。病死ってことでみているようだけど」

「スペクターを持っているような組織なら、霊的な力でどうとでもなるでしょうし」

「それ、立証のしようもないし、普通に病死で処理されるだろうね」

 厄介が過ぎる。いきなり当たりを引いたからラッキーかと思いきや、また振り出しか。まったく、ろくなことがない。

「そいつんち、調べるとかできないわけ?」

 偉そうにふんぞり返って座ったセイが言う。

「表向きはただのバイク泥棒だしね。被疑者死亡でおしまいだね」

「スペクターの売人なのに?」

「スペクターは合法だから令状がおりないね」

「令状?」

「あー。警察はね、捜索差押令状を裁判所に発行してもらえないとガサ入れできないわけ」

 係長の言葉に、セイが不満そうに唇を歪めた。お役所仕事が、とでも思っているのかもしれない。

「じゃあ、私たちで探りましょうか?」

 クミはクミで変なことを言い出す。

「は?」

「あ、それいいな」

 セイが楽しそうに言って、立ち上がる。

「待て待て待て待て。何を考えてる」

 慌てて二人の前に立ちはだかる。

「何って……お二人が動けないのなら、私たちでそいつの家を調べてこようかなっていうだけなんですが」

「だけなんですがじゃない! 普通に不法侵入だそれは」

「でも、別にもう本人死んでるし」

「ダメなもんはダメだ!」

 なんだこいつら。まともそうに見えたクミですらこれか。倫理観どうなってんだ?

「別に、おっさんは知らなかったことにすればいい」

「それじゃあ子守失格だろ」

 いや、俺の仕事、子守じゃないけど。

「君たちの住居侵入を止められなかったとなると、こちらがマドカさんに咎められるし……君たちも、だと思うけど」

 係長の言葉に双子は押し黙る。昨日から虎の威を借りまくってるな。

「……なら、部屋に入らないのは?」

 少し悩んだあと、クミが口を開いた。

「私たちは、部屋に入らない。それならどうですか?」

「あー、その心は?」

「部屋の近くまでは行きます。そして、式神に中を探らせます」

「……係長ぉ~」

「情けない声と目をするな」

 そういう係長もだいぶ疲れたような声色だったが、

「まあ、入らないなら。霊的なものなら。法では、さばけないよねぇ」

 遠い目をして答えた。

「んじゃ、決まりだな」

 満足そうに笑って、セイが勢い良く部屋を出ていき、軽い足取りでクミもついていく。

 一瞬このまま見送りたいなと思ってしまったが、

「……よろしくな、桑野」

「……はい」

 しぶしぶその後を追った。


 公用車の後部座席に双子を乗せて、売人の自宅に向かう。なんだか変な気分だ。あと、すっごいアウェイ。

「別に場所だけ教えてくれればよかったのに」

「そういうわけにはいかないから」

 いや、自分だってそうしたかったけど。

「あのさ、そこはもう諦めて。俺も諦めたから。俺と君たちは一緒に行動しなきゃいけないわけ。俺は仕事だから」

「私たちは、おばさまの試練だから」

「そういうこと」

「はー、仕方ないなぁ」

 マドカの存在を匂わせると、セイも途端にいうことを聞く。それは、崇拝なのか、畏怖なのか。ミノルにはわからない。

「……なあ、今日平日だけど学校は?」

「出席日数は大丈夫ですよ」

「うーん、そのレベルの心配じゃないんだな」

「売人ってやつが不審死したっていうのに、学校行ってる場合じゃないだろ」

 当たり前のように答えられる。

「学業優先させろってマドカさんも言ってなかった?」

「原則には例外があるだろ」

 やっぱり警察ってのは頭が固いんだなーと揶揄するように続けられる。

 頭が固い? 当たり前じゃないか。

「学生の本分は勉強だろ」

「いや、まあ、それ自体は正しいと思うけどさぁー。勉強よりも、大切なことってあるっしょ」

「家の、ことが? あとを継がなきゃいけないから?」

 口にした瞬間、しまったと思った。なんだか含みのある言い方になってしまった。実際、思うところはあるわけだが、それにしたって。

「桑野さんのご懸念もわからなくはないんですけど」

 その懸念に気付いたのかどうか、セイが何かを言う前に、クミが口を開いた。

「私たちはちゃんと、自分の意志で選んでますよ。両親も、おばさまも、別に家を継ぐ必要はないってうるさいぐらい言ってきますし」

 ご心配なくと微笑まれる。

 それに追加で何かを言うほど大人げなくはなかったし、……冷静でもなかった。

「まあ、ならいいんだが」

 唇だけで言葉を転がすように小さく返すと、以降は勝手に喋る双子を野放しにした。

 彼らは選んだという。だが、何かを選ぶ時に、周りから全く影響されないってことはありえない。それは本当に……選んだと、言えるのだろうか?


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