東北地方の山間の村での話

さてらいと

東北の山間の村での話

みなさま、こんにちは。

さて、

私は何年か前に田舎の集落でとても恐ろしい体験をしたことがあります。時間が経ち、そろそろ心の整理もついてきたので、ここで話したいと思います。

わたしは里帰りで数年ぶりに長野のある集落にきていました。

そこは最寄駅からでも車で数時間かかる田舎の集落で、あたりを山にかこまれた自然豊かな場所です。竜神信仰があり、ところどころにいつ建てたかもわからない小さな神社が点在しています。

親の家に荷物を下ろし、私はまず程近いキャンプ場に向かいました。そこは森の一部分を芝生にして作られていて、森の中を流れる川のおかげで渓流釣りの客が来るのです。

今回も2人ほどそれらしき人が泊まっています。

わたしはそこの管理人のおじさんに小さい頃よく遊んでもらっていたので、里帰りの際は必ず寄るようにしているのです。

キャンプ場の入り口にある管理小屋にはいり、カウンターの奥に向かって

「久しぶりー、帰ってきたよー」

と声をかけると、やや間があっておじさんがでてきた。

「おーう、玲(私の名前)か。久しぶりだな。

ちょっとあがってくれ。見せたいもんがあるんだ。」

そういうと、嬉しそうにおじさんは私を小屋の奥へ呼びました。

小屋の中には膝丈くらいの大きさの木彫りの仏像?がありました。

所々濡れていて、藻が張り付いています。

お地蔵さんのような形で、お腹に文字が彫ってありました。

比 可、、八?

なぜかお腹のところだけ欠けていて、それくらいしか読めません。

「何これ?」

私が聞くと

「この先に滝あるだろ?上流で流された釣具とか掃除するために、滝壺に潜ってたら見つかったんだ。」

とのこと、そこはキャンプが建てられたとき見つかった地味な滝で、近くに古い小さな祠があります。以来おじさんが山道を引き、管理をしていました。祠は恐らく滝を守る竜神様のものだとして、ご利益を期待していたそうです。

わたしは御神体のようなものなら心配だと思ったのですが、おじさんは竜神様からの褒美だと言って楽しそうだったので何も言わないでおきました。

おじさんは

「しかもこれ中になんか入ってるんだよな。

重いからここまで近所の人と運んだんだが、コロコロ音がしてさ。かなり凝った作りだな。」

その後、その滝をみに行きました。

静かで落ち着いてなかなか穴場だと思いました。祠は朱色に塗られ、小さな鳥居があって神社のようでした。

この日はそのまま家に帰り寝ました。

次の日、朝早く親が私を起こしました。

なんとキャンプ場にいた人の1人が行方不明になってしまったのです。

男2人で早朝くらいうちに川の様子を見に行ったらしく、目を離した瞬間に片方が消えてしまったそう。

その日は警察を呼んで川の下流をくまなく散策し、昼ごろまで見つからなかったのですが、夕方になって突如あの滝壺に彼の死体が浮かんできました。

見に行こうとしましたが、内臓を荒らされていて腹部の損傷がひどいそうで見ないことを勧められました。

私は仏像が神様の怒りを買ったのかと少し心配になりましたが、熊の仕業ではという周りの話と、おじさんが

「仏像の天罰なら俺に来るはずだから。大丈夫さ。」といったので思い直すことにしました。

 しかし、

次の日おじさんはいなくなってしまったのです。

行方不明者探索は人が変わり続くことになりました。私は必死で捜索しました。しかしその日も昼には滝壺も含め見つかりませんでした。夕方になって滝壺に行ってみると、そこには彼が浮かんでいたのでした。私は泣きながら滝の中に入りおじさんを岸まで引っ張りました。おじさんはお腹が激しく抉れていて

空洞が空いていたのです。

平常心を失った私はしばらくぼんやりしていましたが、ハッと気付いたのです。

あの仏像もお腹に傷がついてついていたのです。あれは御神体ではなく何かを封印するためのものだったのではないかと。

私は滝に仏像を沈めるために急いで管理小屋に向かおうとしました。

そのとき、目の前の水面が揺らぎ、黒髪の女が顔を出しました。水面の下の体は異様に引き伸ばされていて暗い滝壺の底に続いていました。

それは白い手を前に出しいいました。

「赤子、ください」

女が動く前に私は全力で走り逃げ出しました。

仏像を捜索隊の仲間と持ってきた時にはおじさんの体だけがあって、女はいませんでした。

その後、このことは熊による被害となって処理されました。

地域の文献を調べてみると、江戸時代に蛟(みづち)神社という神社があったことのみがわずかに記されていたのみでした。

かつてあの土地で何があったのか、あの女はなんだったのか。

だれもしらないのです。

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