救国の英雄(最強)は、執務机の下で震えている ~国民は「騎士の鑑」と称えるが、俺はただ薄幸の第二王女殿下に踏まれたいだけだ~

@Shizuki_Meguru

第一部:病弱な姫様と、狂犬な英雄

プロローグ:英雄の憂鬱、あるいは禁断症状

 王都の目抜き通りは、かつてないほどの熱狂に包まれていた。  空を裂くような歓声。降り注ぐ花びら。建物の窓という窓から身を乗り出し、色とりどりのハンカチを振る市民たち。  その視線の先にいるのは、一人の青年だった。


 白銀の甲冑に身を包み、漆黒の駿馬に跨るその姿は、まさしく伝説から抜け出してきたかのような英雄そのものだ。  レオン・フォン・エーデルシュタイン。十八歳。  公爵家の次男にして、王国史上最年少で「剣聖」と「大賢者」の称号を同時に授かった規格外の天才。  彫刻のように整った顔立ち、冷涼な切れ長の瞳、そして風になびくプラチナブロンドの髪。  彼が軽く手を挙げるだけで、沿道の令嬢たちは黄色い悲鳴を上げ、屈強な男たちですら憧憬の眼差しで頬を紅潮させる。


「おお、見ろ! あの方のあの涼やかな表情を!」 「三日三晩、魔物の大群を相手に無双した直後だというのに、汗ひとつかいておられないわ!」 「なんと高潔な……。我らが国の誇りだ!」


 賛辞の嵐が吹き荒れる中、レオンは能面のような無表情を貫いていた。  その瞳はどこか遠くを見つめ、深淵のような静けさを湛えている。  民衆は思う。彼は今、散っていった敵や味方に祈りを捧げているのではないか、と。あるいは、次なる国の行く末を案じているのではないか、と。


 だが。。レオンの脳内を占めていたのは、そんな高尚なものでは断じてなかった。


(……限界だ)


 彼は手綱を握る指が震えないよう、必死に力を込めていた。

(早く……早く帰りたい。魔王軍の残党狩りなんてどうでもいい。俺は今すぐ、あの狭くて暗くて良い匂いのする場所に帰還したいんだ……ッ!)


 彼の「遠くを見つめる瞳」は、単に城の窓――正確には、王城西棟三階の角部屋――を凝視していただけである。  彼の「涼やかな無表情」は、今すぐ馬を乗り捨てて全力疾走しそうになる衝動を、理性の皮一枚で抑え込んでいるがゆえの硬直だった。


 英雄レオン。  彼は今、猛烈に「踏まれたがっていた」。

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