【神の源流】獅子舞と狛犬

くるくるパスタ

獅子舞の源流を探る——なぜドゥルガーは消えたのか

■似ている


 国立民族学博物館で、バリ島のバロンを見た。

 大きな目。突き出た牙。毛むくじゃらの顔。二人の踊り手が中に入って操る、獅子のような聖獣。

 日本の獅子舞に、よく似ている。

 バリと日本。地理的にも文化的にも遠く離れた二つの島に、なぜこれほど似た芸能があるのか。偶然の一致だろうか。それとも、どこかに共通の源流があるのだろうか。

 調べてみることにした。



■日本の獅子舞はどこから来たのか


 まず確認しておくべきことがある。日本にライオンはいない。

 獅子というのはライオンのことだ。見たこともない動物を模した舞が、なぜ日本中に広まっているのか。どこかから来たとしか考えられない。

 記録は明確に残っている。『日本書紀』によれば、推古天皇二十年(六一二年)、百済出身の味摩之みましという人物が「伎楽ぎがく」を日本に伝えた。伎楽というのは仮面をつけて演じる芸能で、その中に獅子舞が含まれていた。現在の奈良県明日香村にあった豊浦寺で、子供たちに教えたという。

 正倉院には奈良時代の獅子頭が現存している。日本最古の獅子舞の記録は、七五二年の東大寺大仏開眼供養会での奉納だ。

 つまり、日本の獅子舞は朝鮮半島経由で入ってきた。では、朝鮮半島にはどこから来たのか。答えは明らかだ——中国である。



■中国の獅子舞はどこから来たのか


 ここで問いは一つ後ろにずれる。中国にもライオンはいないのだ。

 興味深いことに、「獅」という漢字自体が外来語だという説がある。民族音楽学者ローレンス・ピッケンによれば、中国語の「シー」はペルシャ語の「シェール」に由来する可能性がある。

 実際、漢代のテキストで「獅子」という語が使われ始めた頃、その言葉は中央アジアと強く結びついていた。パルティア帝国や中央アジアからの使節が、漢の宮廷に実物のライオンを贈っている。珍しい動物として、シルクロードの交易品になっていたのだ。

 獅子舞についての詳細な記述は唐代に現れる。唐の詩人・白居易は「西涼伎せいりょうぎ」という詩の中で、中央アジア出身の胡人こじんが獅子の衣装を着て踊る様子を描いている。木製の頭、絹の尾、毛皮の胴体、金の目、銀の歯、そして動く耳——現代の獅子舞とほとんど同じ形だ。唐代の人々は、これを「外来の舞」として認識していた。

 さらに古い記録もある。北魏ほくぎの『洛陽伽藍記らくようがらんき』には、寺院の仏像パレードで獅子が先導し、悪霊を追い払ったと記されている。三国時代の学者・孟康もうこうは『漢書』の注釈で「獅子の演技」に言及している。

 つまり、中国の獅子舞はシルクロード経由で入ってきた。ペルシャ、中央アジア、そしておそらく——インドから。


   *


 ここで重要なのは、獅子が仏教と強く結びついていたことだ。

 東漢時代(二五〜二二〇年)、仏教の絵画や彫像が中国に伝わり始めた。その中に、文殊菩薩もんじゅぼさつが獅子に乗る図像があった。文殊菩薩は智慧を司る菩薩で、獅子はその力と威厳の象徴だった。

 獅子は「仏の威厳を表すもの」として受容された。百獣の王が仏を守護する——そのイメージは中国人の心に深く刻まれた。

 これが中国での獅子舞の意味を決定づけた。獅子は「辟邪へきじゃの霊獣」——悪霊を払い、福を招く存在——として定着したのである。



■バリのバロンはどこから来たのか


 では、バリのバロンはどうだろうか。

 調べてみると、諸説が併存していることがわかった。

 一つ目の説は、中国の獅子舞からの派生だという。バロンの造形は唐代に中国から東南アジアに伝播した獅子に類似しており、舞の形式も二人立ちで共通している。

 二つ目の説は、ヒンドゥー以前の土着信仰に起源を求める。「バロン」という語自体が「バフルアン」(現代インドネシア語の「ブルアン」、つまり「熊」)に由来するという。森の守護霊としての動物信仰が、後にヒンドゥー教と融合したというのだ。

 三つ目の説は、両者は無関係だと主張する。形式が似ているのは偶然であり、バロンは純粋にバリ土着の芸能だという。

 しかし、ここで見落とせない重要な違いがある。


   *


 日本の獅子舞には、敵がいない。

 獅子は単独で舞い、悪霊を払い、人々の頭を噛んで福を授ける。善と悪の戦いという物語構造はない。

 ところがバリのバロンには、宿敵がいる。ランダだ。

 ランダは「魔女の女王」と呼ばれる恐ろしい存在だ。乱れた髪、突き出た牙、腰まで垂れ下がる長い舌。悪霊の軍勢を率いて人々を脅かす。

 バロンダンスは、この善のバロンと悪のランダの永遠の戦いを描く。両者は戦い続け、どちらも決定的には勝利しない。善と悪は共存し、世界の均衡を保つ——それがバリ・ヒンドゥーの世界観だ。

 なぜ日本の獅子舞にはこの物語がなく、バリのバロンにはあるのか?

 この問いが、私を思いがけない場所へと導いた。



■インドのドゥルガー


 ランダについて調べていて、ある記述に出会った。

 「ランダはインドのドゥルガー女神と関連している。シヴァの配偶者の獰猛な化身であり、聖なる怒りの擬人化である」

 ドゥルガー。

 ヒンドゥー教で最も強力な女神の一人だ。八本から十八本の腕を持ち、それぞれの手に武器を握る。そして——獅子に乗っている。

 ドゥルガーの最も有名な神話は、水牛の悪魔マヒシャースラとの戦いだ。この悪魔は「神にも人にも動物にも殺されない」という加護を得て、天界と地上を蹂躙じゅうりんした。困り果てた神々は力を合わせ、最強の女神ドゥルガーを生み出す。

 ドゥルガーは獅子に乗り、マヒシャースラに挑む。凄惨な戦いの末、女神は悪魔の首を斬り落とす。

 ここに、獅子と「善悪の戦い」が揃っている。


   *


 さらに調べると、インドにも獅子の仮面舞踊があることがわかった。

 西ベンガル州プルリア地方のチャウ舞踊では、ラーマーヤナやマハーバーラタの物語が仮面をつけて演じられる。その中に、ドゥルガー女神の乗り物である獅子が登場する。

 興味深いことに、この獅子は「大きな仮面をつけ、二人の踊り手の動きに合わせて動く大きな布で覆われている」と記述されている。日本の獅子舞、バリのバロンと同じ形式だ。

 また、ナラシンハ(半人半獅子のヴィシュヌの化身)の仮面も使われる。「激しい目と非常に獰猛な表情、そしてたてがみ」を持つという。

 私が国立民族学博物館で見た、バリのバロンに似た仮面——あれはおそらく、このインドの系統に連なるものだったのだ。



■二つのルート


 ここまでの調査から、一つの仮説が浮かび上がる。

 インドには、「獅子に乗る神が悪魔と戦う」という図像と物語があった。ドゥルガーとマヒシャースラ、あるいは文殊菩薩と獅子。この信仰が、二つの異なるルートでアジア各地に広まった。


 

 インドから中央アジアを経て中国に入ったのは、主に仏教だった。文殊菩薩が獅子に乗る図像が伝わり、獅子は「仏の守護獣」「辟邪の霊獣」として受容された。

 しかし、仏教の文脈では、ドゥルガーの血なまぐさい殺戮譚は伝わらなかった。「女神が悪魔の首を斬る」という物語は、仏教的な平和の教えとは相容れない。獅子という形式だけが残り、善悪の戦いという物語は脱落した。

 この「浄化された獅子」が、中国で獅子舞として発展し、朝鮮半島を経て日本に伝わった。六一二年に味摩之が伝えたのは、すでに物語を失った獅子舞だった。


 

 一方、インドから東南アジアへは、海洋ルートでヒンドゥー教が直接伝わった。

 バリ島には、ヒンドゥー教とともにドゥルガーの神話も入ってきた。「女神が悪魔と戦う」という物語構造が保持された。それがバリの土着信仰と融合し、バロンとランダの永遠の戦いという形で結実した。

 ランダがドゥルガーと関連づけられるのは、この経緯を考えれば自然なことだ。凶暴な女神の側面が、バリでは「魔女の女王」として独立したキャラクターになったのである。


   *


 整理すると、こうなる。


  インド「獅子に乗る神が悪魔と戦う」

    ↓

  【分岐】

  ├─シルクロード(仏教経由)→ 物語が脱落 → 中国 → 日本

  └─海洋ルート(ヒンドゥー経由)→ 物語が残存 → バリ


 同じ源流から出発しながら、伝播経路の違いによって、全く異なる姿になった。日本の獅子舞は「物語のない辟邪の舞」、バリのバロンは「善悪の戦いを演じる聖獣劇」——その違いは、ドゥルガーが消えたか残ったかの違いだったのだ。



■消えたもの、残ったもの


 国立民族学博物館で見たバロンの面は、日本の獅子頭に似ていた。

 その既視感は、偶然ではなかった。両者は遠い過去において、同じ源流——インドの「獅子に乗る神」——から分かれた、いわば遠い親戚だったのだ。

 日本の獅子舞から消えたのは、ドゥルガーの凄惨な物語だった。血を飲み、首を斬る女神。その獰猛さは仏教という「フィルター」を通過する際に濾過され、獅子という形式だけが残った。

 バリのバロンに残ったのは、まさにその物語だった。善と悪の永遠の戦い。どちらも決定的には勝利しないという、ヒンドゥー的な世界観。

 文化の伝播において、何が残り、何が消えるのか。それは経路と媒介者によって決まる。仏教が媒介すれば平和的な要素が強調され、ヒンドゥー教が媒介すれば戦いの物語が保持される。

 獅子舞の源流を探る旅は、そのことを教えてくれた。

 みんぱくで見たあの面——インドの仮面舞踊のものだったか、バリのバロンだったか——は、この長い旅の、一つの証人だったのである。

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