春うらら

春山純

春うらら

🎵パンパン🎵

「御嶽山」

🎵パンパン🎵

「金峰山」

🎵パンパン🎵

「霧島」

山手線ゲームで盛り上がる忘年会。楽しそうに手を叩く圭太の前で、私は1人必死に表情管理をしていた。

「楽しんでる?」

そう聞かれるたび、愛想笑いを浮かべて場を凌ぐ。高校時代に磨き上げた愛想笑いだが、自分でも顔が強張っているのを感じていた。圭太は香水の香りが素敵で、気遣いのできる人だと思っていた。同じ出身地だと知って盛り上がったこと。馬鹿にされてきた私の地元を褒めてくれたこと。好きな漫画が同じだったこと。いいところしかない人だと勘違いしていたのかな。酒を飲むと、彼の顔はすぐに、壁に描かれている赤鬼の絵みたいに赤くなった。

「赤くなるだけで酔ってないから」

「アルコールパッチテストって保健の授業でやった?あれで赤くなるやつなんかいるの?」

私だ、なんて言えない。強引に勧められて注文したも同然の生ビールは、小学生の頃に試食で食べた燕の巣くらい不味かった。こんなものに湯水のように金を払う人の気が知れない。誕生日、3月って言っとけばよかったな。残念なことに、私は4月にハタチを迎えていた。圭太くんはそんな人じゃないと思っていた。同じ法学部で、飲酒運転の事故を見るたびに心を痛め、憤慨する彼。法に触れているという点では同じなのに、彼はどうして平然と未成年飲酒をしているのだろうか。山手線ゲームをしている彼は幸せそうで、楽しそうだった。彼が楽しければそれでいいはずなのに、なぜか納得できない私がいる。

「春ちゃん、飲まないの?もっと飲みなよ」

「まだ、これ飲み終わってないから」

亀の甲羅のように硬い声で言った。だる絡みしてきた彼は私につまらなそうな視線を向けた後、梅酎ハイを注文する。いつもそうだ。勝手に好きになった人を、私の好きな人の理想像に当てはめて考えてしまう。彼はスポーツマンで、競技に真摯で、飲酒なんてしない人だと思っていた。法学部でも成績上位で、法律は堅く守る人だと思っていた。飲み会で飲めない人にも気を使うような、気配りのできる人だと思っていた。全部勝手に想像してた私が悪いんでしょ。そうやってもう1人の自分が言うのを、黙って聞いている。

「天保山」

小さな声が響いた。

帰り道、カラオケに向かうみんなとは反対方向の、駅に向かって1人歩く。キャッチの声かけが鬱陶しかった。飲み会なんて行かなきゃよかった。4200円損した気分になった私は、空席だらけの電車でなぜか立っていた。車窓からは真っ暗な景色が広がっている。心にぽっかりと穴が空いたようで、気づいたら頬を涙が伝っている。勝手な青春劇だったの?忘れたいな。そんな恋に終わりを告げた。さよなら。寂れた町の駅で降りて、空に向かって言った。

🎵パンパン🎵

🎵パンパン🎵

悪魔のような声がいつまでも脳内で響いている。嗚呼死にたい。消えてしまいたい。報われない恋をしていた私は惨めで、孤独で、傲慢で尊大だった。



それなのに、次の日になったらまた圭太のことを考えていた。忘れたはずの記憶がふっと脳内に、まるで埃のように舞い落ちる。昨日、圭太が後輩の那月と愛しているゲームをしていたのを思い出す。

「愛してる」

「愛してる」

お互いが言い合う中で盛り上がる周囲を尻目に、冷え切った私の心。それが周囲に悟られないように、必死で表情を作った昨日の晩。嫉妬心が、心から溢れて、居酒屋「春うらら」を埋め尽くしそうだった。嫉妬するほど好きになっていたんだ。自分でも驚いていた。あれほど昨日嫌な思いをしたというのに、それでもまだ圭太のことが好きだった。また彼の石鹸のような匂いを嗅いでいたかった。昨日飲んだせいで頭は重い。重たい体を前に進めて向かった大学で、彼が同級生の沙織と歩いているのを見てしまう。やっぱり嫌いだ。彼の幸せを願えない私も嫌いだ。拳を握りしめ、自分の爪が手のひらに食い込むのを感じた。沙織の短い茶髪は風になびかないけど、私の長い黒髪は風になびく。ねぇ、私の髪の方がずっと綺麗でしょ。なんであんな女の一緒にいるの。届かないとわかってたけど、心の奥底で叫んでいた。

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春うらら 春山純 @Nisinatoharu

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