第8話 再就職

「働いてみようと思います」

 そう言ったとき、日和は驚いた顔をした。

「……大丈夫ですか」

「一度、死んだ身なので」

 冗談めかして言うと、

 日和は少しだけ眉を寄せた。

「無理は、しないでください」

 だが、止めはしなかった。

 オサムは再び営業職に就いた。

 条件は厳しかったが、不思議と怖くなかった。

 怒鳴られても、

 以前ほど心は揺れない。

 ――あの夜より、辛いことはない。

 そう思えた。

 夜、スーツ姿で帰宅すると、

 日和は必ず窓辺にいた。

 走り回るオサムの姿を、

 彼女は自分の目で確かめるように見つめていた。

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