第02話『鋼鉄の葬列、安眠』
「確保せよ! 対象は女一人だ!」
怒号と共に、黒いゴム製のガスマスクを被った男たちが店内へとなだれ込んでくる気配がする。R.C.S.M.(Royal Church of Steam and Magic)……通称『教会』の私兵団『
「貴様が持ち出した『検体』はどこだ? 渡せば命だけは助けてやる」
「い、今ここには……修理に出して……」
「ああん? 修理だと?」
兵士の声が近づく。奴らはカウンターの奥――明かりが漏れているこの鉄扉に気づいたようだ。
「……なるほど、あの奥か。おい、女をどかせ。邪魔なら撃ち殺していい」
「ひっ……!」
「俺たちが直接回収する」
(……最悪だ)
オウルの人格が舌打ちし、レンの自我が警鐘を鳴らす。
追手だ。それも、帝都でも質の悪い公認の私兵団。このままでは、依頼人の女どころか、親方から受け継いだこの店までスクラップにされる。
『……私が焼き払おうか? 「爆縮術式」なら、店ごと消し飛ばせるが』
オウルが冷酷に呟く。
(ふざけんな! 店を守るんだよ!)
俺は作業台の上のオルゴール――応急処置だけは終わった――を懐にねじ込むと、脳内のスロットを強制的に開放した。 魔術師のローブが霧散する。
「……ここは狭い。オウルじゃ被害が大きすぎる」
脳内のスロットを回す。次にイメージするカートリッジは、最も頑丈で、最も「話の通じない」やつだ。
俺は鉄扉に手をかけたまま、低く唸った。
(カートリッジNo.1……
脳髄を焼くような感覚と共に、俺の視点が、感覚が、質量が、爆発的に膨れ上がる。
ギギギ……ガガガッ!
店内に、場違いな重低音が響いた。
鉄扉を焼き切ろうとしていた兵士たちが、異変に気づいて動きを止める。
「なんだ? 奥に誰かいるのか?」
兵士たちが銃口を向けた瞬間。
ドゴォォォォォン!!
鉄扉が内側から「へしゃげ」て吹き飛んだ。分厚い鉄板が紙屑のように丸まり、先頭にいた兵士を巻き込んで店の外まで弾き飛ばす。
土煙と蒸気が立ち込める中、その「影」は現れた。
天井の梁に頭が届きそうなほどの巨躯。分厚い鋼鉄のプレートを何重にも重ねた、歩く要塞のような全身鎧。その兜のスリットから、青い眼光がサーチライトのように輝き、侵入者たちを睨め付ける。
No.1『コンドル』。
「な、なんだ!?」
「化け物か!?」
パニックに陥った兵士たちが一斉射撃を開始する。至近距離からの散弾が、コンドルの胸板を直撃した。
カァン! キンッ! ガギィン!
「馬鹿な……!? 最新の徹甲弾だぞ!?」
「くそッ、怯みもしねぇ!」
だが、響いたのは硬質な金属音だけ。鉛の弾丸は、コンドルの装甲に傷一つつけることすらできず、無力に床へ落ちていく。
(……抜いてたまるか。こんな狭い店で大剣を振り回したら、屋根が落ちちまう)
コンドルは無造作に腕を伸ばし、目の前にいた兵士の頭をアイアンクローで掴んだ。 そして、ただの「ゴミ」のように放り投げる。
「邪魔だ」
「ぐ、ぎゃあああ!?」
投げられた兵士は後続の二人を巻き込み、ボウリングのピンのように吹き飛んで壁に激突する。
コンドルは一歩も足を止めず、ただのタックルだけで残りの兵士たちをショーウィンドウ越しに路地裏へ弾き出した。
静寂が戻る。
コンドルはゆっくりと店外へ歩み出ると、泥水に塗れて呻く兵士たちを見下ろし、初めて背中の大剣の柄に手をかけた。
『……失せろ。次は斬る』
殺気だけで、雨空が凍りつくような威圧感。兵士たちは恐怖に顔を歪め、仲間を引きずりながら逃げ去っていった。
俺は路地裏の影に入り、変身を解除した。青い光の粒子が解け、鋼鉄の巨人が霧散していく。
後には、雨に濡れて肩で息をする、ただの修理屋の青年だけが残された。
* * *
店に戻ると、依頼人の女はまだ震えていた。
俺は濡れた髪をかき上げながら、努めて無愛想に声をかけた。
「……おい。終わったぞ」
「ひっ……! あ、あの鉄の巨人は……?」
「帰ったよ。ウチの『専門家』は気が短いんでな」
俺はカウンターの上に、修理を終えたオルゴールを置いた。
トクン、トクン……という鼓動は消え、代わりにゼンマイが奏でる清らかな音色が店内に響き渡る。
「ありがとう……本当に、ありがとう……」
「礼なら金でくれ。あと、そこのドアの修理代も上乗せさせてもらうぞ」
彼女は金貨の入った袋を置き、逃げるように去っていった。俺は残された金貨の袋をしまい込み、吹き飛んだ鉄扉の残骸を見下ろした。
「……あーあ。派手にやりやがって」
これじゃあ、今夜は2階のベッドで安眠ってわけにはいかなそうだ。
俺は天井を見上げた。この店の2階は、俺のささやかな居住スペースになっている。
俺はポケットから、愛用のライターを取り出した。
ガキン、という音と共に火をつけ、紫煙を吐き出す。
「……悪いな、親方。また店を傷つけちまった」
誰もいない店内で、亡き恩人に詫びる。
技術は裏切らない。だが、平穏を守るには、技術だけじゃ足りないらしい。
俺は工具箱を手に取り、雨音に混じる帝都の喧騒に耳を傾けた。
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