第2話『余波』
俺が吹き飛ばした化け物は、黒い霧のように霧散して跡形もなく消失した。
「まだゲートが閉じた訳じゃないし避難しよう。コガネ」
「うん」
俺はコガネに近づき手を伸ばした。その時、両腕に血管のような模様が浮かび上がり、ズキズキと痛みと熱が俺を襲ってきた。
「くっ…」
「マヒロ!腕が!」
痛みに耐えながらもう一度自分の腕を見ると指の先から肘まで皮膚が黒くなり赤い模様が脈打っている。なんだよこれ…!
《力の代償だ。小僧》
脳を震わすような低い声がする。あの時と同じ声だ。
「代償って…ッ」
痛みや熱がさらに増す。このままではまずい意識まで持っていかれる!
「しっかりしてマヒロ!」
コガネは必死で苦しむ俺を呼び続けている。そして俺は彼女のそんな顔を最後に暗闇に意識を落とす。
****
俺が目を覚ますと白い天井が映る。体を起こしてみれば自分がベッドの上に横になっていたようだ。すると声を掛けられる。
「やっとお目覚めですか〜この寝坊助め」
声の方を見てみれば部屋の扉の前に椅子に座っている軍服を着た桃色のラウンドマッシュの髪型で眼鏡をかけた男性が椅子の背もたれに両腕を置き、顔を乗せている。
「どちら様ですか?」
「僕は気導部隊所属の森川 レンだ。よろしくな」
レンと名乗った男は、眼鏡の奥で穏やかな微笑みを見せながらも、どこか底の読めない視線で俺を観察していた。
口調は柔らかいのに、目の奥では何かを測っているような――そんな印象。
「気導部隊……ということは、俺は助けられたんですか?」
「助けたのは君自身だよ。僕らが到着した時には、もう化け物は霧散していた。…ただし」
レンは椅子からゆっくり背筋を伸ばし、俺に顔を近づけた。
「腕のそれは代償だ。妖気を無理矢理解放した反動。普通なら即昏睡、最悪の場合そのまま暴走して人格を失う。同じ状況で生きてるだけでも相当珍しい」
俺は無意識に自分の腕を見る。
包帯が巻かれ、痛みは薄れていた。しかしその奥に、まだ微かに熱が残っている。
「…俺、あの時コガネを守りたくて。それだけで勝手に力が出て…」
「わかってる。理由がある力の覚醒は珍しくない。だが妖気は感情で燃えるタイプの気だ。強さと危うさは紙一重」
レンの声は落ち着いていたが、その言葉には確かな重みがあった。
「暴走したらどうなるんですか?」
「簡単さ」
そう言ってレンは指を一本、軽く俺の額へ向ける。
「君が君じゃなくなる。それだけ」
喉が乾く。
想像したくない未来が、言葉だけで背筋を冷たくする。
レンは表情を緩め、にやりと笑った。
「けど安心しろ。君みたいな爆発型は、訓練次第で誰よりも強くなる。僕はそういう人材を見るのが好きなんだ」
「訓練って…俺、能力者になれるんですか?」
「なれる。ただし――条件付きで、な」
レンはポケットから一通の封筒を取り出して、俺に放るように投げた。表紙には大きく文字が書かれている。
『気導士育成学院・特別受験勧告書』
「君は今ここに“危険指定”で保護されている。けど逆に言えば政府は君を“戦力候補”とも見てるってことだ。力を制御できるようになれば、正式な気導士になれる」
心臓が跳ねた。
「学院…受験、できるんですか?」
「正確には“推薦”だよ。でも合格する保証はない。君は妖気使いだ。暴走のリスクが高い分、試験は他の奴より厳しいと思っておけ」
緊張が走る。
だが胸の奥で、別の感情が息を吹いた。
(コガネと同じ場所へ行けるかもしれない)
レンは椅子から立ち上がり、ドアに手をかける。
「目が覚めたら呼んでってコガネちゃんが廊下で待ってる。入れていいか?」
「…え?」
レンはニヤリと口角を上げた。
「泣きそうなくらい心配してた。幼馴染っていいねぇ、青春だ」
一瞬で顔が熱くなった。
返事をする前に、扉は開かれる。
部屋に駆け込んでくる影。
「マヒロッ!」
息を切らしながらコガネが飛び込んでくる。
目の端は赤く、今にも泣き出しそうな表情のまま俺の手を握った。その手は小さく震えていて、どれだけ怖かったのか物語っていた。
「良かった…本当に良かった…!」
その手の温もりが、胸のざわつきを静かに溶かしていく。
あの日常の時間が、たまらなく愛おしく感じられた。
レンが肩をすくめながら言う。
「君の返事は後で聞くよ、津雲マヒロ。――気導士になる覚悟があるならね」
扉が閉まり、室内には俺とコガネだけが残された。
俺は封筒を見つめながら、ゆっくりと言葉を漏らす。
「俺…学院を目指そうと思う。コガネと一緒に」
コガネは少し驚いたが、すぐに笑った。
「うん。一緒に、なろう。私も絶対、負けないから」
彼女の笑顔は、誰よりも眩しかった。
ーーーー
レンはマヒロとコガネがいる病室を後にし、静かな廊下を歩いていると背後から声をかけられた。
「レン隊長さん。あの子を学院に推薦したんですか?」
僕が声の方を向くと茶色の髪でボブの軍服を着た女性が不満そうな顔を僕に向けていた。
「なんや、そんなに僕の推薦が不満かい?アイカちゃん」
「はい!今の彼ではあの学院で生き残る事が難しいと思われますし妖気使いは……みんな最後に…」
僕は彼女が最後まで言い終わる前に彼女の頭に手を置いて撫でる。
「学院で生き残ることやあいつの未来もそうだけど決めつけるのは良くないよ。それに僕の目が正しければあいつは戦力になると思うねん。でも、もしあいつが暴走なんてしたら大変になるから対策は取らんとな」
「対策?」
彼女がキョトンとした顔で僕を見る。僕はその顔にニコリと返すのだが…彼女の表情は呆れたような目に変わっていた
崩壊リライト〜赤鬼は空を見上げる〜 @tirinn77
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