最後の恋花
夏宵 澪
冬のはじまり
新年に咲いた恋花は、淡く美しかった。
私、雪花は高校2年の冬、空を見上げていた。
沈みきらない月と、昇りはじめた太陽が、同じ空に寄り添う瞬間。
二人だけで「暁月」と名付けたその光景は、終わりと始まりが溶け合う、儚く特別な時間だった。
「ほら、見える?」
陽向が指を差す。
その手の温もりに、私の心がふっと軽くなる。
光と光が重なり、世界が静かに息をしているみたいだった。
「うん……きれい」
手袋越しでも指先は冷たく、少し震えた。
でも、陽向の手を握ると、寒さは心地よく溶けていく。
「また来年も、見ような」
彼の声は温かく、自然に未来を約束していた。
その約束が、後に私の命を重くするなんて、このときは知らなかった。
◇
高校3年の冬、私は目を覚ますと、体の奥で何かが吸い取られるような感覚に襲われた。
胸の奥がきしみ、痛みではないけれど、確実に体の一部が少しずつ溶けていくような――そんな感覚だった。
シャツをめくると、鎖骨の下に薄い痣が浮かんでいる。
花弁の形をした淡い影は、昨日よりも少し大きく、静かに広がっていた。
――花咲病。
好きな人への想いを捨てない限り、命を削る病。
もし想いを断ち切れば、進行を止められるらしい。
でも、そんなことは私にはできない。
陽向を想う気持ちは、私の生きることそのものだから。
まだ陽向には気づかれていない。
この程度なら、大丈夫だと思った。
私は知っている。
この冬の終わりに、私はここにいないことを。
でも、陽向にはまだ言わない。
だって、この冬は、恋人でいられる、最後の季節だから。
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