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(👊 🦀🐧)

それらが


 大気圏の揺れに、船内の影が微かに身じろいだ。

 だが、誰も言葉を発することなく、着陸の瞬間まで殻のように身を硬くしていた。

 それらの目的はただ一つ——この惑星で「卵」を収集すること。

 卵は生命の源であり、神聖なものだ。

 知性を持つ種族は皆、卵を生み、それを守り、孵化させる。

 その卵を研究用に一つ、持ち帰るのがそれらのミッションである。

 大気圏を抜けると、船は夜の都市上空で一次停止をした。

 下方には、無数の光が放たれていた。

 スキャナーが惑星そのものをスキャンしていく。

 ――発見。多数の卵を確認。

 画面には、柔らかく丸みを帯び、保護層に包まれた完璧な形状の卵が映し出されていた。

 内部は複雑な回路があり、微弱な電気信号が脈打っている。

 それらは興奮した。

 この惑星の支配種族は、卵を特別な場所に格納していると聞いていた。

 移動と保護を同時に実現しているのだ。

 降下ポッドが発射されると、一つの住居の庭に降り立つ。

 そこにいたのは、眠る一人の人間。ベッドで静かに呼吸を繰り返している。

 それらは人間の頭部に近づき、特殊な吸引装置を起動させた。

 それは痛みを与えず、卵だけを抽出する技術である。

 人間は眠ったまま、わずかに身じろぎしただけだった。

 カチ、と装置が作動し、キュインンと柔らかな吸引音が静寂の中で響く。

 時間にして僅か数秒。

 既にそれらの手に「卵」が収まった。

 まだ温かく、わずかに震えている。

 見事、完璧な標本だ。

 彼らは満足げに船へと戻っていく。

 収集した卵を培養槽に入れ、孵化を待つ。

 しかし、すぐに卵が奇妙な変化を見せ始めた。

 内部の信号が乱れ、培養液が静かに泡立ち初めた。

 やがて、卵は収縮し、培養液と混ざり合い、機能を停止した。

 それらは失望し、次の標的を探し始めた。

 地球には、まだ無数の卵が残っているのだから。だが、それらが持ち去ったものは、決して孵化することはないだろう。

 それは、ただの思考の残骸に過ぎないのだから。

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